全能の人・音の魔術師トッド・ラングレン、20年前のインタビューを再録:音楽配信、アーティスト支援システムについて聞いた(CloseBox)

カルチャー Music
松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

特集

全能の人・音の魔術師トッド・ラングレン、20年前のインタビューを再録:音楽配信、アーティスト支援システムについて聞いた(CloseBox)
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「全能の人」「音の魔術師」の異名を持ち、1960年代から音楽界における鬼才として名を轟かせてきたミュージシャンズ・ミュージシャン、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)が11月19日から23日まで来日公演をしました。同時期に大ヒットを生み出し続けた同年代・同郷(フィラデルフィア)の友人であるホール&オーツのダリル・ホールのバンドをバックに日本で3回のライブを行いました。筆者はそのうち2回の公演を見ましたが、75歳でまったく衰えない歌唱力が大好評でした。

以下は2002年に筆者がネットメディアZDNet Japan向けに執筆した、トッド・ラングレンへのインタビューを再録したものです。この当時、トッドはPatroNetという、ファンによるパトロネージサービス兼定額音楽配信システムを構築・運営しており、その苦労話などを聞いています。現在ではSpotifyやApple Musicをはじめとしたさまざまな音楽配信、Patreonなどのパトロネージサービスがありますが、iTunes Music Storeもまだ存在しないこの時代に先駆的なサービスを自分自身で構築していたわけです。20年前にタイムスリップして、当時の音楽配信やインターネット環境、コンピュータがどのようなものだったかを再体験してみてください。


大阪、東京、これから横浜と福岡とライブが続く、来日公演中のミュージシャン、Todd Rundgrenのインタビューに成功した。自らShockwave(Macromedia Directorというオーサリングシステムをインターネット上で稼働できるようにした仕組み)とFlashを組み合わせた音楽・映像配信を行うToddの最新情報をお伝えしよう。知っている人は知っているはずだが、彼の音楽、特に比類なきテクニックとハートを持つボーカルとメロディアスでかつ高度な楽曲は、多くのミュージシャンの賞賛の的ともなっている。今回は彼のコンピュータとの接点と、最近の音楽活動について聞いてみた。

このインタビューのアレンジメントに、Todd Rundgrenのファンサイト「Todd Rundgren Fan Web」 の運営者である大和田さんに多大なる協力をいただいたことを感謝いたします。

Interocitorの日本語化問題は、Flash MXの採用で解決へ

Todd Rundgren(PowerBook G4のかすれて摩滅したロゴを見て)これはG4だね。でも、これでインタビューを録音するっていうのは初めて見たよ。

▲撮影:松尾敏子

松尾 ははは。では、はじめに、Toddのインターネットを使った音楽配信システムである、TRTV、その運営会社であるPatroNet、そして、アーティストにアクセスにツールであるInterocitorの現状について教えて下さい。前回(2001年)電話でインタビューしたときには、Interocitorが日本語OSの下では動かない問題がありましたね。

Todd Rundgren Interocitorの問題は、Interocitorがメッセージのトラフィックに使っている暗号化ソフトで、ダブルバイトのUnicodeが通らないのが原因だということがわかった。だから、そのパーツの交換はDirectorのほうでやらなくてはならず、その部分をFlash MXにまかせることにしようとしている。Flash MXはShockwaveよりもダブルバイトUnicodeの扱いがしっかりしているんでね。ぼくはツアーに出ていたので、自宅に戻ったら、それが第一のプライオリティだ。これができれば、日本語だけでなく、非英語圏の人たちも、Interocitorを使えるようになる。

松尾 すると、たくさんの国のファンが、Interocitorでアクセスできることになりますね。

Todd Rundgren そうだよ、日本人だけでなく、フィンランド人も(笑)。標準のアスキーセットを使っていない地域も、これでTRTVにアクセスできることになる。

松尾 前回のインタビューでは、PatroNetと合併したArtistEntとの提携を解消したばかりでしたが、その後、進展はありました?

Todd Rundgren PatroNetは、インターネットミュージックの新興会社になると思っていたArtistEntに買収された。この会社は元Artemis Recordsの社長であるDanny Goldbergが作った会社だったんだが、まさにその年に、インターネットが崩壊した。たくさんのインターネット関連企業が倒産し、すべてが振り出しに戻ったんだ。それから立ち直るのにはかなりの時間がかかった。彼らはエンジニアリングチームとリソースを提供してくれる予定だった。必要な助けを得ることができなかったので、予定していたよりも多くの時間がかかってしまった。ほしいと思っていたモノが現実のものにはならなかった。

松尾 でも、Toddは自分でエンジニアリングをできたのがよかった。

Todd Rundgren まあね。誰もできないのなら、自分でやるしかない。こんなふうにツアーに出ていて、高速のインターネット接続ができないと、作業はとまってしまうんだ。日本のホテルはだいたいがダイヤルアップだし、泊まっているホテルのそばにあるKinko’sでは高速インターネットが使えるけど、そこでは自分のコンピュータが使えない。ぼくはサーバにアクセスしてアップデートするようなシステムを作っているんだけど、そのためには常時接続で、高速にアクセスできる環境が必要なんだ。旅先ではそれが難しい。

松尾 次に来日したときには、常時接続のホテルリストを紹介しますよ。

Todd Rundgren アメリカにはたくさんの高速接続可能なホテルがあるのは知っているけど。Ethernetコネクタにプラグインするだけですむんだが。

優れたFlashミュージックビデオを作る秘訣とは?

松尾 ところで、さきほど、Flash MXを使っているという話がでましたが、”I Hate My Frickin’ ISP”のような、Flashを使ったすばらしい作品を作る秘訣を教えてもらえますか?

Todd Rundgren ははは。これはもうかなり古い作品だ。2年前のね。だから、古いFlashテクノロジーを使っている。でも、ぼくがビデオのバックグラウンドを持っているのは知っているよね。ミュージックビデオを作っていた経験があるから、その知識をFlashにも持ってこようとしたんだ。ミュージックビデオのFlashを作る人は、ビデオと統合する時に、リソースのマネジメントを間違ってしまう傾向にある。サウンドに対して、グラフィックスを過大に比重をかけてしまうから、サウンドの品質がとても貧弱なものになってしまう。だから、最初に、最低限アクセプトできるサウンドの品質を設定し、その残りをグラフィックスに使うようにするんだ。最初に技術的な評価を行い、それからアニメーションを追加するんだよ。さらに、ビットマップは使わないようにする。容量をめいっぱい食うからね。

松尾 ベクターグラフィックスを使うわけですね。

Todd Rundgren そう。できるだけベクターグラフィクスを使うようにする。リサイズ、回転、カラリゼーション、レイヤー、アニメーションを使った面白い効果などを使う。複数のレイヤーが違う動きをすることで、もっと面白い効果を出せるようにする。多くの人たちがグラフィックスのリソースにこだわり過ぎて、スペースがなくなり、同じことを何度も何度も繰り返すようになる。ぼくがやったのは、最後まで行っても新しいと思えるものをビデオで作ることだ。そうしないと、オーディエンスは最初の30秒ですべての素材を見終わって、それを延々と繰り返し見せつけられることになる(笑)。

松尾 それは、Utopia時代に作ってきたミュージックビデオの経験からくるものですね。

Todd Rundgren LightWave 3Dなどの3Dを含めたコンピュータグラフィックスを何年もやってきた経験から、いろいろなタイプのリソースマネジメントをやる必要があった。計算(レンダリング)にかける時間がどれだけあるのか、それを終えるためにはレコーディングで妥協をする必要があるとか。そのトレードオフを理解せずにFlashビデオを作っている人は多い。最高品質を求めるならば。

松尾 Toddは音楽を第一に考えると、

Todd Rundgren Flashビデオ、ドキュメンタリーと、ミュージックビデオにはいろいろとあるけれども、音楽は、聴いてもらわなければならない。いくらすばらしいグラフィックを使っていても、音楽が聞き取るのに苦労するような品質のものではね(笑)。たいていの場合、そんな感じで、見るのにはいいけど、聴くのにはためらうようなものばかりだ。だから、ぼくらがミュージックビデオを作る時にはオーディオを第一に考え、テストをする。圧縮レシオの調整、オリジナルのEQを変えたりして、圧縮、音質がよくなるようにする。MP3などは、高い周波数、低い周波数を使わないので、フィルターアウトしてる。特定の周波数を上げるか、下げるかも調整して、圧縮比率が最適になるようにするんだ。

George Harrisonトリビュートの話

松尾 George Harrisonの名曲、”While My Guitar Gently Weeps”をカバーしたMP3データを、Interocitorを使ってTRTVからダウンロードしました。

Todd Rundgren ドラムにPrairie Prince(TubesをToddがプロデュースしたときからのつきあい?)、ベースにLarry Taggでやったやつだね。ぼくは、残りのすべてのパートをやった。

松尾 ギターがすごく良かったです。

Todd Rundgren 日本に向かう前日にこの曲を完成させて、ミキシングをして、アップロードしたんだよ。(TRTVの購読者)みんなに同報メールを送ろうとしたんだが、そのメッセージがこわれていたみたいで……(笑)。ぼくは送ったつもりなんだが、みんなは受け取っていないみたい。これは、George Harrisonのトリビュートアルバム用に演奏したものなんだ。チャリティのための。

松尾 白血病、ガンのためのチャリティですね。

Todd Rundgren ぼくがこの曲をやった理由は、この曲をAbbey Road Show(Toddをはじめとするオールスターで行ったライブツアー、来日公演もあった)で2年くらい演奏したからだ。みんな、この、レコーディングバージョンをほしがってた。それで、トリビュートでやった、というわけだよ。みんなが期待してるんで(笑)。

松尾 アルバム”Faithful”(邦題は、「誓いの明日」)で、The Beatlesのカバーをやっていますが(RainとStrawberry Fields Forever)をやってますが、ボーカルとギターがよいです。

Todd Rundgren そういうのは、いまではとても普通になってきている。ぼくがボーカルトラックをオリジナルマスターから提供して、ほかのミュージシャンがそれをベースに別のトラックを録音して、といったことができる。Todd Rundgren & His Friendsという名義で出してる。1トラックを除いて、Edgar Winterが出てくれて、Steve Lukather、Steve Stephensといった有名なギタリストも登場している。これは、最近ではとても珍しいことだ。ほかのレコード会社のアーティストのアルバムにゲスト参加するなんて。

2003年3月にはHall & Oatesと来日?

松尾 来年(2003年)、再び来日公演するという噂がありますが。

Todd Rundgren いまのところは、まだ噂だけど。でも、この夏の半分をHall & Oatesと一緒にツアーしていた。ぼくらにとって、いくつものレベルにわたって成功を収めてきた。まず、音楽のレベルにおいて。ぼくらはよいコンビネーションだった。そして、チケットの売れ行きも良かった。そこで、アメリカ以外の地域−日本も含めて−でもやろうかという話がある。3月にという人もいるけど、まだ決まっていないとぼくは認識している。

松尾 ぼくらは、Hall & Oatesの初期のアルバム”War Babies”のプロデューサーはあなただというのは知っていますが……。

Todd Rundgren そうだね(笑)。たしかに1971年か1972年だったかに、最初のコンタクトを持った。いろいろとクロスオーバーしたことはあったけど、実際、これがぼくらが一緒のステージに立った最初のものだよ。

松尾 1978年のライブアルバム”Back To The Bars”では、Daryl Hall & John Oatesが出演者リストに載っていますけど。


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Todd Rundgren Daryl (Hall) とJohn (Oates) がコーラスを歌うためだけにステージに上がってくれた。Roxy(ライブハウス)にいたみんなにステージにあがるように頼んだんだ。だから一度だけのことなんだ。

松尾 それが25年以上たって、本当に一緒にやるチャンスが生まれた。

Todd Rundgren 同窓会、だね。彼らとやる論理的な理由はないんだけども、パッケージとして、オーディエンスにとって面白いものを作ったみたいだね。プレスにも興味を持ってもらえるし。それに何よりも、音楽的に「互換性」がある。音楽的にも成功している。

ホール&オーツとトッドの共演は、2003年のアルバム「Do It For Love」の楽曲「Someday We'll Know」で再度実現。ホール&オーツは来日したが、そこにトッドはいなかった。ダリルとの共演は、彼のライブハウスを舞台にした番組「Daryl's House」でスタート。今回のツアーは、ダリルのハウスバンドをバッキングに、最初はトッドが1時間、次にダリルが1時間ちょっと。最後に2人がジョイントでそれぞれのヒット曲をデュエットするというそれぞれのファン垂涎の演出となっている。

Mac OS Xは、開発用には使っている

松尾 もういちど、コンピュータと音楽のかかわりについて聞きますが、いま、Mac OS Xは使ってますか?

Todd Rundgren Mac OS Xは使ってるよ、ポーティングをしなくちゃいけないからね(笑)。それ以外では、OS Xを積極的に使う理由はないんだよ。

松尾 音楽ツールのせいですか?

Todd Rundgren 自分が使わなければいけないものが、まだOS Xに移植されていないからね。だから、普段は別のオペレーティングシステムを使っている。ぼくはAppleを強力に支持しているのだけど、彼らのトランジション戦略がうまくいっているとは思えない。すでにMac OSを使っている人たちに使っていることを考えているのではなく、たとえばPCユーザーをコンバートするためのものではないかな? Aquaのルック&フィールは、いろいろものが動き過ぎて、Appleが設定したユーザーインタフェースガイドラインから大きく逸脱している。新しいGUI、Finderアプリケーションもろもろが。最悪なのが、OS Xでブートすると、スクリーンがブルーになることだ。これは、クラッシュしたPCみたいだ。

松尾 はははは。

Todd Rundgren 一体誰が、スクリーンの起動画面をブルーに決めちまったんだ(笑)!

愛用のMP3プレイヤーはライブでも大活躍

松尾 MP3についてはどのような考えを持っています? それと、iPodのようなMP3プレイヤーについて。

Todd Rundgren ぼくは実際、CDをすべてMP3プレイヤーに突っ込んでいるんだよ。iPodは確かにすばらしいインタフェースを持ち、コンパクトだ。でも、ぼくはLyra Jukeboxを使っている。なぜかというと、これは自分でハードディスクを換装できるんだ。

松尾 2.5インチのディスクなら、ですね。ぼくのPowerBook G4は60Gバイトですから、そこまでいけるわけですね。

Todd Rundgren そうそう。60Gバイトにしている。欠点は大きいことと、USBインタフェースだということだけど、PCとMacの両方に対応しているし、なによりも大容量のディスクを内蔵しているから、高品質でエンコードしても十分に余裕があるんだ。

松尾 どんな設定でやっているんですか?

Todd Rundgren 192kbpsでエンコードしている。デバイス自体はそれ以上でもいけるんだけど、これなら満足できるくらいの音質を得られる。実のところ、ライブのなかの、”With A Twist…”関係のところは、これでバッキングを流していたのさ。

松尾 あれは何かと思っていたのですが、Lyra Jukeboxのカラオケだったんですね(Toddはライブのなかで、これがバッキングバンドだ、と紹介した)。

Todd Rundgren Jukeboxには、2種類のデータを入れてあって、ひとつは、ボーカルとギターをマイナスしたもの。そして、ボーカルだけをマイナスしたもの。前者は東京公演みたいな、ギターのJesse Gressが助けてくれるのもので、後者は、横浜公演でやるときみたいな、完全に一人でやるとき。これが、それぞれのフォルダに入っていて、それから選んでやっているんだ。

松尾 その東京公演ですが、1部のステージと2部のステージでずいぶん曲を入れ替えてますが、何か意味があるんですか?

Todd Rundgren 選曲は、1部だから一般向けで、2部だからマニア向けってわけじゃない。ただ、今度は一人でやるものが多いから、思い出せるもののなかから選んでやってるんだ。ところどころ、忘れてしまうものもあるけど(笑)。

松尾 ははは。

Todd Rundgren 普段はやらないような曲をやるかどうかは、ぼくがとちっても、お客さんが許してくれるようなノリかどうかで判断するね。それを許さないような雰囲気だったら、確実な、手堅い曲をやるんだ(笑)。

このインタビューは、(2002年)9月21日のお昼に、宿泊先の新宿のホテルにて行われた。1日に2ステージで、インタビューの前夜にはパーティーがあって、体調がすぐれない様子だったが、インタビューには快く応じてくれた。来春には日本へのツアーが期待できるなど、今回の来日が終わっても、相変わらずロードに出ることの多いToddだが、インターネット配信システムの開発もその間隙を縫って行うようだ。なお、今回の来日のなかでは、1部のステージと2部のステージの両方を見ることができたが、長年のファンにとっては懐かしい(そして、あまりライブではやらない)曲を(冒険をおかして)いくつも披露してくれた。このすばらしいアーティストをステージ近くでゆったりと見るチャンスはなかなかない。21日の東京のステージは満席だったようだが、横浜、福岡と、まだ見る機会は残されている。



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《松尾公也》

松尾公也

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