家庭用ゲーム機は価格が下がらない時代に入った。そのビジネスモデルはどう変わってきたのか(西田宗千佳)

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西田宗千佳

西田宗千佳

フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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家庭用ゲーム機は価格が下がらない時代に入った。そのビジネスモデルはどう変わってきたのか(西田宗千佳)
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初代Nintendo Switchの発売(2017年3月)から6年、PlayStation 5とXbox Series X/Sの発売(ともに2020年11月)から3年が経過した。そして、11月10日にはPS5の新型が発売されている。

そろそろ、現行世代のゲーム専用機(コンソール)も次の段階に入った印象がある。任天堂がいつ次の世代を出すかはわからないが、この辺で今のコンソールビジネスを俯瞰して考えてみよう。


※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2023年11月13日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。



「コンソールの価格がなかなか下がらない」時代に

新型のPS5が発売となったが、このモデルは従来のモデルと多少異なる部分がある。

PlayStationはデザインを大幅に変えたモデルを発売する際、小型化とともに価格が下がるものだった。初代PlayStationの頃からの伝統だ。

だが、今回のモデルはそうではない。ドルベースでは価格が下がっておらず、為替の関係で日本市場ではむしろ値上がりしている。

性能などに変化はなく、コンパクト化しただけ。「PlayStation 4 Pro」のような性能アップ版でもない。

値上げについては為替の関係なのでしょうがない。ただそもそも、今回のモデルは値下げを前提としたものではない、という点が重要だ。

なぜ値下げされないのか。正確に言えば「できない」のだ。

過去、コンソールが値下がりする時には、使われている半導体のコストダウンが生じていた。価格が下がった理由は、半導体製造のプロセスルール変化(いわゆるシュリンク)による生産性向上によって、同時に製造できるプロセッサの量が増えるからに他ならない。

PlayStation 2(2000年から2012年まで出荷)のCPUであるEmotion Engineは、初代モデルの場合240平方ミリメートルだった。だが最終的には、GPUであるGraphic Synthesizerとセットで86平方ミリメートルまで小型化している。面積は約7.8分の1になった計算で、コストはその分下がる。PS2は4回シュリンクしており、そのたびに値段が下がっていった。

だが、プロセスルール進化によるコスト低減効果は次第に落ちていく。

PlayStation 4の場合、設計変更を伴う値下げは基本1度だけだし、シュリンクによる半導体の設計変更は、コストダウンよりも「性能アップ」に使われた。性能向上版の「PlayStation 4 Pro」が作られたのだ。

PS5に搭載されているAMD製APUは初代モデルでTSMCの7nm世代が使われ、マイナーチェンジモデルで6nm世代になった。先日発売になった新型でも半導体は大きく変わっておらず、6nm世代のままと思われる。


TSMCの最新プロセスは3nmだが、全量をアップルが押さえているとされるし、4nm・5nmもスマートフォンやPC向けで需要は埋まっている。小刻みな進化になって生産量は劇的に上がらなくなっている。製造単価も上がっている。プロセスルール向上は「価格を維持して性能アップ」することには使えるものの、単純なコストダウンにはつながりにくくなったのだ。

この傾向は当面変わらない。だとすると、コンソールは「劇的に値下がりするもの」ではなくなったということだ。実際、前の世代であるPS4もそうだったし、Nintendo Switchもそうだ。Xbox Series X/Sはハイエンドと低価格モデルの2ラインであることもあってか、今世代では大幅な値下げもマイナーチェンジも行っていない。

ただし、量産によってボディやファンなどを作るコストは下がるし、生産最適化もできる。ディスプレイを高品質なものに変えて価格を維持した新モデルを投入したり、搭載されるストレージ(SSD)の容量を増やしたりすることも可能だ。

……という見方をすると、近年のコンソールの派生モデルの実情が見えてくる。

2021年に発売されたNintendo Switchの新モデルが「有機EL搭載モデル」であったり、今年11月発売が発表されたValveのSteam Deck新型が「有機EL搭載で多少のプロセッサシュリンク」だったのも、要はそういうことだ。


新型PS5は小型化しつつ生産性を向上し、流通安定を目指したもの……と言えるだろう。

今後もこの傾向は変わらない。

大幅に世代を変える、すなわち次世代にプラットフォームを移行するときはコストをかけた新しい設計となるだろうが、そうでない場合にはマイナーチェンジ、もしくはプロセッサの性能を上げた「高性能中間世代」を作ることになるだろう。

ただ、任天堂の次はもう次世代機だろうし、マイクロソフトは「中間世代を作らない」と公言している。

SIEがどうするかはわからない。作る可能性もあるし、内部ではもちろん検討が進んでいるだろう。ただ、筆者は「作らなくても不思議はないかもな」と、少し考えている。

モバイルとPCの波がやってきた

コンソールの位置付けは、2010年代前半までと2010年代後半、そして2020年代前半で変わっている。

2000年代まで、コンソールは間違いなくゲームビジネスの中心だった。そこにモバイルゲームが生まれ、スマートフォンの普及とともに2010年代前半はスマホ向けのモバイルゲームに注目が集まった。ゲーム産業というピラミッドに「モバイルゲーム」という裾野ができて、そこにリソースが集中した時代、といってもいいだろう。携帯電話からスマートフォンというモバイルゲーム市場の勃興と巨大化により、「コンソールという市場はもう小さくなる一方」と考える人々も出てきた。

だが、2010年代後半になると、それもまた間違いであることが見えてくる。

ゲームを趣味とする人々は想像以上に多く、モバイルゲームだけでなく「腰を据えてやるゲーム」もちゃんと支持されることが明確になってきたのだ。コントローラーを使った「正確なインタラクション」を伴ったゲーム体験は、ある意味保守的だがちゃんと収益の回るビジネスだったのだ。PS4とSwitchの大きな成功はこれが背景だ。

さらに、オンライン配信プラットフォームであるSteamの安定的な成長もあって、PCゲームの市場も広がっていく。

2020年以降の世代は、これまで以上にPCとコンソールの境目が小さくなった時期と言える。ハイエンドゲームの多くがPCとコンソールで同時に発売され、インディ系のゲームはPCから生まれてコンソールへと移植され、プレイヤーを増やす。

モバイルゲームも、カードゲームやキャラクター育成ゲームは(世界的に見れば)勢いが落ち、規模の大きなオープンワールドやバトルロワイヤル型が増えた。スマホでプレイする人が多いものの、PC・コンソールにも同じタイトルが出て、プレイヤーの裾野を広げるのが基本だ。

マイクロソフトは、コンソール自体の拡販と同時に、Xbox自体をより幅広い存在へと再定義している。サブスクリプションによる遊び放題型の「Xbox GamePass」を作り、コンソールでもPCでもクラウド経由でも同じゲームを安価に遊べるようにした。

現在は「特定のプラットフォームでしか遊べない」ゲームは例外的な存在になりつつある。プラットフォーマーが出資して作る、いわゆる「ファーストパーティータイトル」と一部の独占契約を結んだゲーム以外は、いろいろな形で触れられるようになってきた。これは「ゲームを遊ぶ人の数を最大化する」意味では妥当なやり方ではある。

今後もコンソールはコンソールだが……

ゲームの消費は変わった。

パッケージソフトしかなかった時代は、発売日からの1カ月でソフトからの収益が決まった。発売日までにどれだけプロモーションできるかがカギであり、盛り上がりは今より派手だった。中古市場はメーカーの敵でありつつ消費者の味方でもあったが、ゲームは「すぐに売られないように作る」必要が出て、ゲームの内容や形態を縛る足枷でもあった、

だが、オンライン販売が当たり前になると変わった。

ゲームの中古市場は急激に弱くなり、ゲームから収益を得られる期間は長くなった。発売の数カ月後から数年にかけ、セールや追加コンテンツ販売で収益を得られるようになっている。価格弾力性は上がり、ゲームの規模に合わせて変えられるようになっている。一方、国で隔てられた市場の壁は低くなり、プロモーションにコストをかけられないと新作の山に埋もれ、収益を上げるのが困難にもなる。

今はまさにそんな状況だろう。

ゲームとしてはPC+ハイエンドコンソール(PS5とXbox Series X/S)が主軸だが、アジアを中心にSwitchも支持を受けている。

SwitchのみCPUアーキテクチャが違うものの、それ自体はそこまで大きなハードルではない。課題はPC/ハイエンドコンソールと性能が違いすぎて、アセットの共有などに手間がかかること。だから任天堂の次世代は「最高性能を目指す必然性はないが、トレンドからずれない程度の性能が必須」になるのが必然だ。ギミック的な機能(モーションコントローラーの類や分離合体など)は差別化要因として搭載されそうだが、それは予測できないし予測してもしょうがないところかな、と思っている。

PCとハイエンドコンソールの差が小さくなっているということは、「PCがあればコンソールは不要」という価値観に近付いているという見方もできる。それはそれで1つの道かと思う。

そのため、筆者は以下のように予測している。

・ハイエンドゲーマーはPCの利用率が高まる
・コンソールは手軽で品質の安定した機器として今後も市場を構成
・マスはコンソール+モバイル、それぞれで遊ばれるゲームは異なる

PCはPCであるが故に、安価なまま「ゲームができるくらいの性能」にするのはなかなか難しい。PCとしての使い勝手を重視した製品とゲームに必要とする高負荷な環境での快適さを実現した製品とを、低コストかつ同じボディで実現するのが難しいところがある。

一般的なノートPCだと「ゲームもできるが、さほど快適ではない」状況が続くだろう。PCは同じものを長く使い続ける人が多く、性能刷新がなかなか進まない。

アップルのM3やインテルの第14世代Core、最新のRyzenならゲームもこなせるのだが、そのクラスのPCが平均的な存在になるには、最低5年はかかるだろう。この辺は、ゲーマーやPC好きの感覚とはかなり異なる。

ハイエンドなゲーミングPCを買う人の比率は高まっているが、それでもやはり「一部の人々」が毎年投資を続けていくような市場で、数千万台くらいにはなりにくい。コンパクトなモバイルゲーミングPCも同様で、コンソールの台数まで拡大するとは考えづらい。少数を短いスパンで作り続ける市場、と考えるべきだろう。ガジェット市場としては魅力的なのだけれど、その先への拡大は難しい。

別の言い方をすれば、Steamを使うような層が使うPCの平均性能は十分高くなっても、多くの人がコンソールを不要とするほどPC市場のスペックが高くなるには時間がかかる、という話でもある。

コンソールのような設計思想のゲーミングPCが出てくる可能性もあるのだが、「アップグレードがなく、OSのコストが高いゲーム専用機」を買う人は限られると考えられるから、そうした機器は「モバイルゲーミングPC」に限られそうだ。

クラウドゲーミングは便利だが、運営コストが高いという課題がある。月額課金などでコスト回収を図る必要があり、「手軽である」という利点とマッチしない。品質を維持するためのコストを考えても、当面は付加価値のままにとどまるだろう。

そう考えると、今の「PC+コンソール+モバイル」という市場構成は当面変わらず、コンソールはその中で「どこが好適な性能バランスか」を見定めつつ製品化されていくことになりそうだ。

マイクロソフトがXbox Series X/Sの中間世代をつくらないのはこうしたバランスの中で、同社が「Windows PCでゲームをする人からもWindowsという形で収益を得られる」からでもある。

任天堂とSIEは当然、別の形を目指すことになる。そうすると、「コスパが良くて快適なものはどんなバランスか」が重要ということだ。

その上では、ゲームを買って遊ぶためのプラットフォームの快適さや安全さ、ゲームの見つけやすさなどが大きな価値を持ってくることになる。

ちょっとした作品であっても「面白さが伝わる」と大きなヒットになる。昨今の「スイカゲーム」のヒットはその好例だ。

スイカゲームは面白いゲームだが、中国で類似のゲームが2年前に大ヒットしている。それが可視化されず、日本には伝わっていなかったわけだが、突如面白さの可視化が進んだことでヒットした。

そういうヒットを自発的に作れて、購入へと結びつきやすい構造が重要なのだが、コンソールはどうもその辺が弱い。

3社がそこをどう改善し、新しい秩序を作るかが、今後はハードウェア以上に重要なことになっていくだろう。

《西田宗千佳》

西田宗千佳

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