クイーンの楽曲『ウィ・ウィル・ロック・ユー』を聴くとインスリン分泌が促進するデザイナー細胞の研究が発表。『アヴェンジャーズ』サントラも効果

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Munenori Taniguchi

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ETH Zurich

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHチューリッヒ)の研究者らは、大腸菌からカルシウムイオンの流れを制御するたんぱく質を取り出し、それを人のインスリン細胞に組み込むことで、インスリンの分泌を促進するデザイナー細胞を作り上げました。

この細胞は、音に反応してインスリン分泌が活性化する性質があることがわかったため、研究者らは、どのような音が最も効果が高いかを調べてみました。その結果、最も高い効果を生み出したのはクイーンの代表曲のひとつ『We Will Rock You(ウィ・ウィル・ロック・ユー)』だったと報告しています

現在、米国では3700万人を超える糖尿病患者がいるとされます。また日本においては、糖尿病が強く疑われる人の数を指す「糖尿病有病者数」が約1000万人と報告されています。

糖尿病患者の体内では、インスリンの産生が鈍くなり、糖尿病の種類や症状によっては適切なタイミングでのインスリン注射が必要なケースもあります。研究者らは体内のインスリンレベルをもっと簡単に増加させる新たな方法を研究してきました。

ETHチューリッヒの新しい研究では、大腸菌からカルシウムイオンの流れを制御するたんぱく質を抽出し、それをインスリン細胞に組み込むことで、イオンの通り道を備えた新しいデザイナー細胞を作りました。この細胞では、音に晒されると正電荷を帯びたカルシウムイオンが導かれることがわかり、その結果インスリン細胞からインスリンが放出され、体内に行き渡らせられるようになることがわかったと報告されています。

ここで一般的な研究者ならば、どのような「周波数」やどのような「音の大きさと長さ」で最も効率が良くなるかを調べてひとまず終わりにするところです。しかしETHチューリッヒの研究者はもう一歩踏み込んで、上記条件を調べた上で、マウスのお腹にこの細胞を移植し、様々な曲を聴かせて、もっとも「からだに良い曲」を探しました。

その結果、研究者らは音量85dB、ベースになる周波数50Hzで5~15分聴かせたときに最も効果が高かったのが、クイーンの『We Will Rock You』だったことを報告しました。この曲を聴かせたマウスは、5分間聴き続けるだけでインスリンを約70%放出し、15分以内にすべてを放出したとされます。この楽曲は、ロック・ポップスというジャンルの中でも特異な楽曲で、前半はほぼボーカルとリズム音だけではあるものの、細胞にとってはそれが機能を活性化させるのにちょうど良いのかもしれません。

ちなみに、『We Will Rock You』に次いで効果が高かったのは映画『アヴェンジャーズ』のサウンドトラックだったそう。一方で、クラッシック音楽のようなベースの音が強調されにくい音楽ジャンルはあまり効果が高くないことがわかりました。

なお、インスリンの放出を促すトリガーは、移植されたデザイナー細胞にスピーカーをくっつけるような格好でなければ作用しないようになっています。たとえば、イヤホンやヘッドホンを使って音楽を聴いても、必要な細胞には音楽が作用しません。また、大きな騒音のある環境などで、必要ないときに細胞が作用しないようにするため、あえてスピーカーを接触するぐらいの距離で聴かせるよう考慮してあるとのことです。

残念ながら、いまのところこのデザイナー細胞を使った治療がすぐに糖尿病患者に提供されることはないようです。研究者らはこの実験を概念実証として考えており、実用化のために研究を進めるには、企業などの関心を集める必要があるとのこと。

ただ、この発見はさまざまな症状を治療するために他の種類の細胞にも適用できる可能性があるとも述べており、いつか将来には、音楽ストリーミングサービスに特定の体調を整えるためのプレイリストなんかが作られ共有されるときが来るかもしれません。

Zhao H, Xue S, Hussherr M-D, Buchmann P, Palma Teixeira A, Fussenegger M: Tuning of cellular insulin release by music for real-​time diabetes control, Lancet Diabetes & Endocrinology, 23 August 2023

doi:external page10.1016/PIIS2213-​8587(23)00153-​5call_made


《Munenori Taniguchi》
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