Apple Vision Proはなぜ3D酔いが起こりにくいのか。空間コンピューティング専門家が分析

ガジェット XR / VR / AR
Kiyoshi Tane

Kiyoshi Tane

フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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アップルが空間コンピュータと呼ぶ「Vision Pro」は、既存の分類でいえばAR機能に重点を置いたVRヘッドセットに位置づけられます。しかし実際に装着して体験した人たちからは、VRヘッドセットに起こりやすい「VR酔い」の報告がほとんどありません。


なぜ、Vision ProでVR酔いは起こりにくいのか。 英リバプール・ホープ大学でAIと空間コンピューティングを研究するデイヴィッド・リード教授がその理由について分析しています

リード氏は、Vision Proは仮想現実(VR)と複合現実(MR)の両方を扱う初の製品ではないものの、これだけパワフルな処理能力により実現したのはアップルが初めてだと指摘。

Vision Proには2つの独立したチップセットが搭載されており、1つはグラフィックやソフトウェア等を実行するM2チップ。もう1つは12のカメラ、5つのセンサー、6つのマイクからの入力を処理するR1チップです。

これにより「瞬きの8倍高速な12ミリ秒で新しいイメージをディスプレイにデータストリームとして伝送」つまり12ミリ秒の遅延だけで画像が表示される、とアップル公式も謳っています。

アップルが3D酔いを解決したのかについては「改善しましたが、まだ理想的ではありません」とリード氏。そして3D酔いの主な原因は「Vergence-accommodation conflict(VAC/直訳すれば「輻輳-適応障害」)」だと述べています。

VACとは、手短に言えばVR空間内にある3Dオブジェクトまでの距離と、そこに焦点を合わせるために必要な目の動きとが食い違っていると脳が受け取ったときに起こる問題と定義されます。

人の目は近くを見るときには内側に寄り、遠くを見るときには外側に開くよう動き、それに伴い水晶体に付いている筋肉にも変化が起こります。が、VRヘッドセットではステレオの立体視で奥行きがあるように見えても、画面は目から物理的に一定の近さにあり、視覚情報と肉体(目の周りの動き)からの情報が異なるために脳が混乱をきたす、というわけです。

このVACの問題を解決するには様々な手法が提案されていますが、それぞれにトレードオフがあり、一般に導入されたものはありません。

リード氏によれば、Apple Vision Proでは「ラグと遅延(人間の操作やセンサーの入力から処理が実行されるまでの時間、実行されてから画面に反映されるまでの時間)を減らし、高品質のディスプレイを使う」ことで「乗り物酔いに対して最高級の対策をしたヘッドセットを作った」と述べています。

つまり3D酔いは原理的には避けがたいものの、アップルは画像やソフトウェアを処理するM2プロセッサ+センサーからのデータ処理に専念するR1プロセッサ、それらを直ちに反映できる2300万画素の超解像度ディスプレイという、ある意味で力技により最小限に抑えたという説明です。

体験者からの「3D酔い」の報告が少なかった点については、社外の一般人がVision Proを試せたのは連続してせいぜい数十分であること、比較的動きが少ないか短時間の体験用メニューに限られていたからという面もあります。

とはいえ、リード氏が指摘する「力技」の解決はMac並のプロセッサ、ヘッドセット専用に独自チップ(R1)を開発できる技術力、それに高価なマイクロOLEDディスプレイがあってこそ実現できるもの。3500ドル~の価格や、アップルの総合力があってこそ可能であり、他社の追随は難しそうです。

《Kiyoshi Tane》
Kiyoshi Tane

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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