Valve、AI生成画像を含むゲームを却下した理由は「訓練データの権利も確保しているか不明のため」

ゲーム PC
Kiyoshi Tane

Kiyoshi Tane

フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

特集

Image:Steam

あるインディーゲーム開発者がPCゲームプラットフォームSteamを運営するValveに、AIが生成したアセットを含むゲームを提出したところ、配信を断られたとRedditに投稿しました

これに対してValveが、開発者がアセット作成に使ったAIの訓練データに関して十分な権利を持っているか不明なことが却下の理由であり、AI技術に反対しているわけではないとの声明を出しました

Steamには他のアプリストアと同じく審査・承認プロセスがありますが、実際に開発者がゲームを提出するまでは、コンテンツに関して何が禁止されるかのルールは必ずしも明確ではありません。

そして上記のゲーム開発者が、明らかにAIが作成したと分かるアセットを数個入れたラフ版(開発途中のテスト版)を提出したところ、一度は拒否。

Valveのメールも公開されていますが、その中では特に「第三者が所有する、著作権で保護された素材に依拠していると思われるAIにより生成されたアセット」が含まれることを指摘しています。

一般にAI生成画像については、

1. モデルのトレーニングに他者の画像を利用することの是非

2.出力された画像が結果として他者の権利を侵害しているか否か

の観点があります。

Valve は訓練に使ったデータの権利もクリアしていること、つまり1を問題にしていますが、元々の回答では「第三者が権利を保有している画像に依拠しているように見えるAIで生成された画像」があったことを理由としており、つまりは提出されたアセットが明らかに他者の画像から学習して作られたと分かるレベルのものであったことが発端ではあるようです。

生成系AIは莫大な学習データありきですが、その中には著作権で保護されている画像や楽曲などが含まれている可能性もあり、権利問題が生じることも懸念されています。実際、ユニバーサルミュージックがSpotifyやApple Music等に対して、BoomyのようなAIサービスが著作権で保護されている楽曲をAIに学習させないよう求める書簡を送ったこともあります

さらにValveはメールで「このようなAIが生成したアートの法的所有権は不明確であるため、ゲーム内アセット生成に用いられたAIの訓練データセットに使われた知的財産すべてにつき、あなたが権利を持っていると確実に証明できないかぎり、わが社はAIが生成したアセットを含むゲームを配信できません」と述べています。

この開発者は、その後ゲームを手作業で直して「AIのあからさまな痕跡はなくなった」上で再提出したとのこと。ただしAIの痕跡は、「本人がそう考えている」という主観の域を出ないでしょう。

それから1週間後、Valveは再リジェクト。「開発者が必要な権利をすべて持っていないゲームを配信できません。現時点では、アセット作成のたたき台となったAI技術の訓練データにつき十分な権利があるかどうか不明のため、あなたのゲームの配信をお断りします」とのことで、最初のメールと同じ趣旨を繰り返しています。

この件につきEurogamerが取材したところ、ValveはまずAIについて学んでいる最中であり、ゲーム開発においてAIがどう使われるか、Steam上で配信するゲームを審査する際にどのように考慮するかも模索していると述べています。

さらに「我々は技術が常に進化すると認識していますし、Steam上でAI使用を阻止することが目標でもありません。そうではなく、既存の審査ポリシーにどう組み込むかを検討しています。簡潔にいうと、我々の審査プロセスは現在の著作権法とポリシーを反映したものであり、自分たちの意見を加味しているわけではありません。これらの法律やポリシーが時間の経過とともに進化するに伴い、わが社の審査プロセスも進化していくでしょう」とのことです。

さらに手短に言えば、AIの訓練に使われるデータセットに関する著作権法の整備が間に合っていないなかで、慎重な姿勢で臨まざるを得ないと主張しているようです。

今回の声明では「ゲームを配信するために必要な権利を持っていると証明することは、開発者側の責任です」とも述べており、Valveが著作権にまつわるリスクを負うつもりはないと強調しています。

その一方でValveは、「通常であればアプリ審査の手数料は返金しないものの、今回は例外として払い戻しさせて頂きます」とリジェクトされた開発者に通知しています。ゲーム開発でのAI開発を敵視しているわけではないと、ニュートラルな姿勢を示すためかもしれません。

もっともゲーム業界すべてが生成系AIに慎重なわけではなく、たとえばUbisoftはゲーム中の様々なキャラクターが発する会話を自動生成する「Ghostwriter」を発表しています。今後、どのようにAIと著作権をめぐる法制度が整備されていくのか注視したいところです。


《Kiyoshi Tane》
Kiyoshi Tane

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フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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