ソニー・ホンダモビリティAFEELAが示す「ソフトウェアが価値を定義するクルマ」SDVの未来(本田雅一)

テクノロジー Mobility
本田雅一

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ジャーナリスト/コラムニスト

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ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析。

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久々に米ラスベガスに赴いて参加したCES 2023。元々は家電製品の見本市だったCESだが、近年はコンシューマ向けテクノロジの見本市と銘打つようになっていた。本質に変化はないのだが、家電製品だけでなく自動車やネットワークサービスなど幅広くテクノロジが関わるエンドユーザーが自らの感覚で選ぶ商品に関連するものの集まりに変化してきている。

中でも自動車ジャンルはEV(電気自動車)へのソフトが急速に進み始めている中、CESのメインコンテンツの一つになっている。

●CESはまるでモーターショー?

ソニーブースの近くを歩いていると、日本人のモータージャーナリストが「いやぁ、過去一で今回のCESはモーターショーですね!」と話しているのが聞こえたが、実際にはそこまでではない。

著名な自動車メーカーもCESには顔を見せているものの、本格的なブースを出しているメーカーは多くないBMWやフォルクスワーゲンが市場を含む既存製品の体験を提供したり、メルセデスがインフォテインメントシステムを詳細に展示したりはしているが、各社一様にコンセプトカーや試作モデルを並べるような場というわけではない。

一方で自動車メーカーを陰で支える自動車部品のサプライヤーにとって、EV時代における自分達の立ち位置を明確にしようと、さまざまな提案を行う場にはなっていると思う。コロナ前には部品メーカーが、EV向けコンポーネントや制御システムなどを組み合わせ、新しいタイプのモビリティを展示する風景も常態化していた。

Mercedes Vision EQXX

脱炭素化が進む中で既存自動車メーカーも、さまざまな形でEVに取り組んではいるが、キーコンポーネントを供給している技術力が高い自動車部品メーカーからすれば、どのような経緯でEVへのシフトが進むにしろ、自らの立ち位置はしっかりと確保しておきたいということなのだと思う。

なんて話は、エレクトロニクス製品のエンドユーザーが中心の本誌読者には興味がないかもしれないが、実はこの流れの中に意外性やちょっとワクワクする未来が垣間見える。

例えば、アップルが自動車産業に参入するのではないかと言われ始めた頃から使われ始めているSoftware Defined Vehicle(ソフトウェアによって価値定義が行われるクルマ:SDV)という概念は、まさにスマホ時代のEV時代には大きな位置を占めてくるだろうと考えている人が、ある程度以上にはいる、ということだ。

●”ソフトウェアでの差別化”に本気で取り組むソニー

そんな中で(もう聞き飽きた人が多いだろうが)注目されていたのが、ソニーグループとホンダのジョイントベンチャーであるソニーホンダモビリティが展示する予定だった試作車であることは間違いない。

AFEELA(アフィーラ)の名称で発表されたクルマは、社長兼COOの川西泉氏曰く「量産試作とコンセプトカーの間ぐらいも感覚」というから、まだデザインもコンセプトも、またデモで見せてもらった車内エンターテイメントの質に関しても、まだまだこれから煮詰めていくものだろう。

パノラミックディスプレイが、右から左まで切れ目ないディスプレイになっていたり、加速音をダウンローダブルコンテンツとして切り替えられるようになっているところなど、ところどころにアップデートはあるが、基本的な体験はソニー時代のVISION-Sを踏襲している。

外装に関しても、まだジョイントベンチャーが成立する前から作業は進めていたものの、それでもたった半年で図面を引いて試作車両を組み立て、実際に一般道で走らせてというところまでやっていることもあり、急造りの感は否めない。

ただ、どこか表情に乏しいと感じるマスクは意図したもののようで、存在を主張するようなデコレーティブなグリルなどは、スマートフォンのようにソフトウェアで価値定義されるような車には似合わないから、とあえて無垢の顔にしたのだとか。

と、ここで気づいた方もいるだろうが、ソニーホンダモビリティが作る車は、まさにソフトウェアによって、その価値を定義する、言い換えると個性を引き出すクルマに仕上げることが”既定路線”であり、ソニーから来た人も、ホンダから来た人も、同じようにその価値観を持っている。

いわば、SDV特化型の自動車メーカーとも言える。

なるほど、ソフトウェアに重きを置いた自動車メーカーと捉えたら、ホンダがわざわざソニーの手助けをして自動車生産と流通、販売、保守を手伝う理由もあろうというものだ。自分達のブランドでは(まだ)踏み込んでいけないところに、ソニーと一緒に踏み込んでみようということだろう。

●どこまでソフトウェア化できるのか?

確かに自動運転の時代を基本にクルマの価値を考えるならば、ソフトウェアによる体験の質はとても重要だ。

自動運転時のEVはとても静かな上に、ドライバー、パッセンジャーともに負担が少ない。そんな環境では車内エンターテインメントの重要性は高まるだろうし、ソニーが得意とする映像、オーディオの体験を高め、またPlayStationの世界とクラウドゲーミングで接続することも含め、簡単に楽しそうな世界は描けるだろう。

しかしその程度であれば、何もわざわざクルマ全体を作る必要もなかろう。

加減速時のサウンド演出、EVの操作に対するクルマの反応など、ドライビング体験のかなりの部分もソフトウェアが支配するようになるだろうが、ではそこに既存自動車メーカー以上の価値を出す余地があるかと言えば疑問に感じるところもある。

ただ、少々荒唐無稽ではあるが、AI技術で人との共生を図ろうとするソニーのコンセプトは、あるいはクルマにも活かせるのではないだろうか。

ピクサーのヒット映画「カーズ」では、登場するキャラクター全てが自動車を元に描かれている。カーズの世界で自動車は感情を持ち、その時々の環境でさまざまな反応をし、周囲もそれらを感じることができる。

もちろんカーズはユニークな空想世界の物語だが、フロントとリアにメディアバーというディスプレイを搭載するAFEENAは、そんな空想世界に少しだけ近づく新しいタイプのEVになるのかもしれない。

多数のセンサーとディスプレイから得られる情報を、自動運転などの安全性に活用するだけではなく、ソニーがaiboを通じて開発してきたAI技術を用い、ドライバー、パッセンジャー、それに周囲の人たちとの関係性を築いていく。

ややロマンティックに感じるかもしれないが、自動車だけではなく、あらゆるモビリティも都市を構成する要素と数えるならば、どのようにモビリティの周囲と調和していくのかは、新しい世代のEVにとって必要なことなのかもしれない。


本田氏もゲスト登壇するリアルイベント「テクノエッジ新年会&CES報告会」を1月13日夜に秋葉原で開催します。お申し込みはお早めに。


《本田雅一》
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