「PS5は年末商戦の敗者」「Xboxはゲーム機の最底辺」ソニーとMSが自虐の応酬。アクティビジョン・ブリザード買収めぐり政府に訴え

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Kiyoshi Tane

Kiyoshi Tane

フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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今年初め、米マイクロソフト(以下、「MS」)がゲームパブリッシャー大手アクティビジョン・ブリザードを買収する計画を発表してから、すでに10ヶ月が経過しました。

それが今なお実現していないのは、世界各国の規制当局から「独占禁止法違反ではない」と承認を得ることに手間取っているからです。なぜ手こずっているかといえば、1つにはこの機会に巨大テック企業を制御したいという各国政府の思惑。もう1つは、ゲームプラットフォーム市場で全面的な競合であるソニーが強く反対して各国政府に働きかけていることがあります。

そうして焦点になっているのが、両社の英競争市場庁(CMA/公正取引委員会)への申し立てです。MSはアクティビジョンを買収しても健全な競争を阻害しない、むしろ促進すると訴え、かたやソニーはMSが買収により支配的な力を持ってしまうと主張している次第です。

そんなやり取りのなか、ソニーもMSも「自分はとても強大な相手に敵わない」と弱さを強調し合う、普段の宣伝合戦とは逆の事態となっています。

まずソニーが10月28日(現地時間)にCMAに提出した書類では、ゲーム機の販売台数について「Xboxが「若干」(somewhat)PS5を下回っていることは、マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザード買収が無害であることを意味しない」「実際に英国の2021年末商戦では、PS5はXboxとNintendo Switchに及ばず3位だった」と例を述べて主張。

普段の宣伝ではできるだけ多く見せたい台数差を控えめに表現するとともに、供給不足と戦っていたピンポイントな期間と市場を選んでPS5最下位を印象づけようとします。

そして最大の焦点は、アクティビジョンの超強力IP「Call of Duty」(以下、「CoD」)シリーズ。このシリーズはゲームハードの売れ行きを左右しかねない影響力があるため、両社が何度もやり合っていることは既報の通りです。

そこでソニーは「CoDはマネできない。あまりにも根づいており、ライバルがどれだけ優秀でも追いつけないほどです」と褒めちぎり、過去10年間にわたりFPSジャンルで圧倒的なトップセールスを誇ってきたと指摘しています。

それは事実としても、なぜかEA(エレクトロニック・アーツ)に飛び火。同社は「Battlefieldシリーズで長年CoDに対抗しようと挑んでいます」としつつ、「CoDとBattlefieldが似ていること」や他の成功したAAAフランチャイズ(FIFAやMass Effectなど)の開発実績はあるものの「Battlefieldシリーズはとても追いつけません」とバッサリ。

さらに「2021年8月の時点で、CoDのゲームソフトは4億本以上売れたが、Battlefieldはわずか8870万本しか売れていない」と、長年の盟友のはずのEAを数字で容赦なく打ちのめしています。

かたやMSも10月初めにCMAに提出した書類で、ソニーと同じように「自らがどれほど弱いか」を数え上げる論陣を張っていました。

「Xboxはゲーム専用機の最下位」「PCゲーム市場では7位、モバイルゲーム配信事業ではないも同然」と言い、「クラウドゲーミングが成功するために必要な消費者行動の大きな変化を促したい」と主張。そして自社が推進しているクラウドゲーミング事業も普及率が低いため、(タイトルの独占により)競合サービスを傷つけたり劣化させる理由はどこにもないとのこと。

とはいえ、互いの主張には確かな真実も含まれていると思われます。

たとえばMS側は「ソニーは今日、ゲーム機における市場支配力を反映した行為を行っています。市場シェアを失うことを恐れずにゲーム機の価格を上げるなど」とPS5の強気な値上げを指摘。その一方で、米IGNはEAの最新作『Battlefield 2042』が当初はマップが広すぎてウォーキングシミュレーター(敵になかなか会えない)と呼ばれるなど、本当に「期待に応えられなかった」とコメントしています

ちなみに、その渦中にあるEAのCEOは、「CoD」がXbox独占となる可能性を「とてつもないチャンス」と大歓迎。「Battlefieldが完全にクロスプラットフォームであることは、非常に大きなチャンスだと思います」として、絶対に勝てないCoDがPlayStationから去りかねない可能性に満面の笑みを浮かべているようでした。

ハイテク大手が強力な企業やサービスを買収するとき、自らや買い物の対象がいかに取るに足りないかを主張し、それを阻止しようとするライバル企業が相手がいかに強大で独占的な立場を手にする危険があるかを力説するのは、いつの時代も変わらぬお約束でもあります。

とはいえ、どちらかが一人勝ちして競争がなくなると、ゲームハードやサブスクリプションが理不尽な値上げをされても他に選択肢がない、という状況になる可能性もあるはず。MSもソニーが互いに「自分の方が弱い」「こちらゲームの方が売れてない」と互いに自虐し合う現在は健全なのかもしれません。

《Kiyoshi Tane》
Kiyoshi Tane

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フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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