マイクロソフト、アクティビジョン・ブリザード買収の意義を説くページ開設。ソニーからの独占批判に対抗

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Kiyoshi Tane

Kiyoshi Tane

フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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マイクロソフト、アクティビジョン・ブリザード買収の意義を説くページ開設。ソニーからの独占批判に対抗
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米マイクロソフトがゲームパブリッシャー大手アクティビジョン・ブリザードを総額687億ドル、当時の為替レートでは約7兆8700億円で買収する「計画」を発表してから、すでに9ヶ月近くが過ぎました。

いまだに買収が完了していないのは、世界各国の規制当局から独占禁止の観点で問題ないとお墨付きを得る必要があるため。

仮に買収が成立しても、マイクロソフトのゲーム部門はソニーと任天堂に次ぐ第三の規模にしかなりませんが、アクティビジョンが擁する超人気IP「Call of Duty(CoD)」シリーズの存在が話を複雑にしています。

規制当局が懸念する以上に、CoDをライバル陣営に買われ独占にされてはもっとも困るソニーは各国政府に対して異議を申し立てている状況です

そんななか、マイクロソフトはアクティビジョン買収について専用ページを開設し、「プレイヤーやクリエイター、業界全体に利益をもたらすものだ」と力説しています。

このページの冒頭では「プレイヤーと開発者がXboxの中心です」と高らかに宣言。さらに「私たちは、人々がいつでも、どこでも、どんなデバイスでもゲームをプレイできるようにしたいと考えています。そして開発者は、画期的なゲームを開発し、配信し、収益化するためのより多くの選択肢を得る資格があります」とのこと。

そう前置きした上で、アクティビジョン買収がゲーム業界や自社のゲーム戦略にどのように貢献するか、より多くの情報をシェアすると述べています。

つまり、複数あるゲームプラットフォームの垣根を越えて、直接プレイヤーとゲーム開発者に呼びかけている体裁です。ソニーが強硬に反対して各国政府に働きかけている事情を織り込むと、実に意味深に解釈できそうなフレーズでしょう。

それぞれの利害関係者向けのメリットは、まずプレイヤーにとっては「Xbox、PlayStation、スマートフォン、オンラインなどでより多くのゲームが楽しめること、プレイヤーがゲームを買ってプレイする方法と場所の選択肢が増えること、そして「スマートフォンでゲームをする95%のゲーマーにとっては、支配的なモバイルプラットフォームが提供するゲームに代わる新たな選択肢」としています。

漠然としていますが、アクティビジョン・ブリザードがマイクロソフト傘下になればより多くのプラットフォームでゲームを提供する、マイクロソフトはサブスクリプションのXbox Game Passを提供しているため、遊ぶ方法も増えるといった主張のようです。

このうち前者2つは「CoDがXbox独占になるのでは?」論者にどれほど説得力があるか疑問でもあり、最後の1つは「XboxゲームがXbox Cloud Gaming経由でスマホで遊べる」ことが、「支配的なモバイルプラットフォーム」つまりアップルとGoogleに対するオルタナティブとして成立するのか?との指摘もありそうです。

第2のゲームクリエイターにとってのメリットは、要約するとマイクロソフトのアプリストアの魅力を謳っているもの。

そしてゲーム業界へのメリットとしては「寡占状態となっているモバイル分野での競争の促進」や「(アクティビジョン・ブリザードの買収が成功しても)ソニーと任天堂が最大手であり続ける、伝統的なゲームにおける競争の促進」など。

プレーヤーと開発者に呼びかけつつ、ページの存在意義としては規制当局に訴えることなので、マイクロソフトによる買収は独占の真逆で競争促進になると主張しています。

最後の「ポジティブな職場文化を重視し、マイクロソフトによる世界中のスタジオやクリエイティブなエコシステムへの現地投資を増加させる」は明らかにゲーム開発者への利点はあるでしょう。もっとも、アクティビジョン買収と関係なくできそうではあります。

また、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOがBloombergの取材に応じた動画も貼られています。

マイクロソフトが公的な場でアクティビジョン買収をポジティブに印象づけようとするのは、これが初めてではありません。今年夏にも、ニュージーランドの商業委員会(日本の公取委に相当)に対してアクティビジョンは「必須」のゲームを作っていない、つまりCoDはキラータイトルではなく独禁法違反の恐れもないとの趣旨を主張していました

おそらくマイクロソフトにとって最大のハードルは、ソニーがCoDを自社プラットフォームにとって「必須」のタイトルだと主張しつつ、今後も末永くPlayStationにCoDタイトルを供給し続けるよう約束を迫っていることでしょう。

Xbox事業トップのフィル・スペンサー氏は今年初め、「(ソニーとアクティビジョンとの)既存のすべての契約を尊重するという我々の意図と、PSでCoDを維持したいという願いを確認した」と述べていました。

が、SIEトップのジム・ライアン氏は、「現行の契約期間が終わった後、3年間」PlayStation版を発売すると提案されたと明かして、これを多くの点で不適切であり、我々のゲーマーへの影響を考慮していない」との声明を出しています

結局のところ、マイクロソフトがソニーに対して「今後も永遠にCoDシリーズを供給し続けます」と約束すれば買収は加速しそうではあるものの、マイクロソフトとしては最後の切り札は取っておきたい、といったところでしょう。そのためにソニーへの言質は与えず、頭越しにプレイヤーや開発者に呼びかける体裁の主張で外堀を埋めているのかもしれません。


《Kiyoshi Tane》
Kiyoshi Tane

Kiyoshi Tane

フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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