iPhone 14やiPhone 14 Proを見るとき、皆さんはどこをチェックするだろうか? おそらくはカメラ機能やSoCなどが中心だと思う。
だが今回、アップルの発表会を現地で見ながら考えたのは「アップルの新しいアピール軸は安心・安全だ」ということだ。
それはどういうことなのか、少し解説してみたい。
アップルはなぜ「Apple Watchで助かった」話をアピールするのか
今年の発表会は「Apple Watchのおかげで命が助かった人々」のドラマ仕立ての動画で始まった。以前よりアップルは、心臓疾患や転倒事故について、最悪の事態を免れた人々から多数の手紙が届いている……と話してきた。それらのエピソードの積み重ねが、ユーザーにも浸透してきたことを感じさせる。
異常通知・事故通知は他のスマートウォッチにもあるが、アップルはさらにその要素を徹底してアピールしている。今年は自動車事故を前提とした「衝突事故検出」機能をApple WatchとiPhoneに搭載した。
事故や病気は「万が一」のものだ。ほとんどの人はこれらの機能のお世話になることはないが、誰もが可能性を否定できない。異常通知・事故通知の効果が明確になるほど、「万が一のためにつけておこう」と考える人は増えるものだ。
Apple Watchは「iPhoneの周辺機器」と言われるが、もうその認識は古い。万が一のためのApple Watchをつけたいと思う人が増えるほど、Apple WatchのコンパニオンとしてのiPhoneの役割は重要になってくる。
衛星での緊急通信も「万が一」への備え
Apple Watch同様に、iPhone 14でも異常通知・事故通知を重視した。「衝突事故検出」機能がすべてのiPhone 14に搭載されていることからもそれはわかる。
また、アメリカ・カナダで今年11月からスタートする「衛星を使った緊急通報」機能も「万が一」に備えるものに他ならない。
日本の場合、携帯電話が一切通じないところは山奥が中心であり、そこまで移動する人の数は少ない。だが、広大な国土を持つアメリカ・カナダの場合、自動車で街から少し移動しただけで携帯の電波は入らない……という場所も少なくない。自家用機も普及しているから、「誰もいない土地」に移動するのは簡単だ。
そうすると、衛星から緊急通報ができるシステムは、やはり「万が一」のものではあるが、日本よりずっと身近で切実な機能になってくる。
衛星での緊急通信については、日本のiPhone 14もハードウエアとしては搭載している。だが、緊急通報に対応するためのサービス側の準備などが整う必要があるので、その部分は各国で準備していくことになるのだろう。アメリカ・カナダが先行したのは、アメリカがアップルの本国であると同時に、「よりニーズが高い地域」であるからだと予想している。
長期戦略で「iPhoneを買う意味」をアピール
こうした要素を備え、自社サービスの中に組み込んでわかりやすく提供することは、「アップル製品を使っている人に安心感を届ける」ことにもなる。
アップルはセキュリティサービス会社や保険会社ではないが、大きな枠で考えると「テクノロジーで安心の一端を届ける要素を受け持っている」とも言える。
逆に言えば、安心・安全を支える要素を「機器を買うだけで」シンプルに使える形で提供していることが、スマートフォンメーカーとしてのアップルの強み、ということにもなる。
「万が一に備える」ものに過ぎないとはいえ、積み重なっていけば、ユーザーが他の企業の製品に逃げるのを防ぐ役割を果たす。冒頭で説明したApple WatchとiPhoneの関係はまさにその好例だ。
逆に言えば、「現状この戦略はアメリカで最大限の効果を発揮するものの、他の国ではまだその一歩手前である」ということでもある。特に、治安の良い日本、それも都市部に住んでいる人はピンとこないかもしれない。
iPhoneを含めたアップル製品を「売る方法」は色々ある。割引・下取りなどを活用する部分については、日本でもアメリカでも積極的にアピールされるようになった。それだけ価格の問題が大きい、ということでもあるのだろう。
一方で、人々が同じプラットフォームのスマホを買い続ける理由を作るという意味で、やはりアップルは上手だ。「安心・安全」という軸で今回の発表を見た時、他社に比べ、一回り大きな絵を描いて先回りしているような印象を受けた。下取りほど即効性はないが、アップルが明確な長期戦略として取り組んでいるのは確かなようだ。
関連記事:
5分でわかるアップル新製品まとめ。 iPhone 14 Proはノッチ廃止、シリーズ史上最も屈強なApple Watch Ultraも