宇宙用レーザーを開発するスタートアップ Orbital Lasersは10月30日、JAXAと「高度計ライダー・イメージャシステム ミッション部」の研究開発契約を結んだと発表しました。
開発する観測装置はJAXAの新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」に載せ、軌道上で実証します。
■ 線ではなく面で地表を測る衛星ライダー
「高度計ライダー」とは、衛星から地表にレーザーを当て、地形や建物、樹木の高さを測る装置。レーザーの反射・散乱光が戻るまでの時間から距離を算出し、衛星の位置・姿勢と組み合わせて地表の3次元位置を割り出します。
NASAのICESat-2など既存の衛星ライダーが進行方向に沿って「線」で測るのに対し、Orbital Lasersは自社の高出力レーザーと、単一光子レベルの微弱な反射光を捉える受光センサーを組み合わせ、1回の照射で広い範囲を連続的に測る「面的ライダー計測」の実現を目指します。
カメラ(イメージャー)も搭載し、光学画像と組み合わせて計測地点の位置特定を高精度化します。

HTV-Xでの実証では、宇宙環境でのレーザー照射から反射光の受信、測距までの一連の機能と性能、安定性を確かめます。
■ NASAも狙う「面」計測、国内では未実現
地表を測る宇宙ライダーは国内に実現例がなく、NASAなどが大型衛星や国際宇宙ステーションで先行してきました。代表例のICESat-2(2018年打ち上げ)は線状に測る方式で、氷床や森林などの科学観測に使われています。

線と線の間の空白を埋める技術は、NASAも開発中です。NASAゴダード宇宙飛行センターのCASALSは、レーザーの波長を256通りに切り替えて回折格子で振り分け、可動式の鏡なしに連続した帯状に3D計測する仕組み。2024年11月には航空機に搭載して試験を実施しています。
JAXAも国際宇宙ステーション「きぼう」に載せる森林観測ライダー「MOLI」を計画してきましたが、まだ打ち上げに至っていません。
■ デブリ除去と計測が2本柱の宇宙レーザー技術スタートアップ
Orbital Lasersは、スカパーJSATが2019年から理化学研究所と進めた宇宙用レーザーの共同研究をもとに、2024年1月に設立したスタートアップ企業。
スペースデブリ除去と衛星ライダーを事業の柱とし、民生と安全保障の双方に使えるデュアルユース技術として開発する方針を掲げています。
デブリ除去では、高エネルギーのレーザーを照射して表面の物質をプラズマ化・気化させ、表面から放出する反動を推力とする「レーザーアブレーション」方式を開発。
理化学研究所と推力発生実験を実施しており、まず回転するデブリを止める装置から事業化する計画です。
2025年11月には、防衛省の「軌道上での自国衛星の監視・防御技術に関する研究」で、脅威となる宇宙物体との距離を測るレーザー測距の設計・試作を約20億円で受注しました。
地表を測る今回の装置とは用途が異なりますが、高出力レーザーと高感度の受光部という基盤技術は共通です。

JAXAは官民連携の光学観測事業の一環で、高度計ライダー衛星を自ら開発する計画を進めています。Orbital Lasersは2024年10月、その衛星システムの概念設計と一部ミッション部の試作に関する契約を結んでおり、今回はその成果を受けた次の段階です。
スペースデブリ除去に使える出力の宇宙用レーザーはまさにデュアルユース技術ですが、地表の3D計測も安全保障と無縁ではありません。JAXAは高度計ライダー衛星の価値に安全保障を挙げ、2030年頃の姿として安全保障・経済安全保障の基盤となる最新の3D地図を描いています。
■ 航空機測量を宇宙へ、商用コンステレーション構想
Orbital Lasersは将来、商用ライダー衛星を年に複数機打ち上げてコンステレーションを組み、航空レーザー測量に準じる精度と点群密度で世界各地の3次元点群データを継続的に取得する計画です。航空機では地理的制約やコストで測りにくかった地域も対象になります。
小型・低コスト化の鍵として同社が挙げるのが、高出力のまま消費電力や発熱を抑えるレーザー技術です。電源と熱制御の負担を減らし、衛星全体を小さく安くできるとしています。用途には国土・インフラ管理、防災・減災、森林資源管理、デジタルツインの構築を挙げます。







