2026年7月、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、2028年以降に発売されるすべての新作ゲームについて、12cmサイズのBD-ROMでの製造を行わない方針を発表した。
多くのメディアではその是非を問う内容となっていたが、本連載ではそこには切り込まない(笑)。もちろん、本稿では、中古市場問題とか、ゲームの物理的所有概念のことは取り扱わない。
本稿では、1990年代から、空気のような扱いをされながらも、確実に進化を遂げてきた12cm光ディスクメディアの現状がどのような状況なのかを把握しようという内容としたい。
また、現在の最新光ディスク技術をゲーム機に活用したらどうなるか……といった仮定の話も交えてみたい。
現在の12cmの光ディスクROM事情
現行家庭用ゲーム機のPS5やXbox Series X|Sにおける12cm光ディスクはブルーレイディスク(BD)規格のROMディスク(BD-ROM)である。先代PS4/Xbox Oneでも同じBD-ROMではあったが、こちらは最大50GBの2層(DL)式BDであった。
これがPS5になると、3層のBD-ROMとなり、容量は100GBへと増やされた。実際にはこのメディアは、4Kブルーレイの異名を持つUltra HDブルーレイ規格にも採用されたBDXL(Blu-ray Disc Extra Large)規格の3層規格をベースにしたBD-ROMメディアである。
ちなみに、Xbox Series X|Sはゲームディスクについては、Xbox One時代と同じ2層規格の最大50GBまでの制約があるものの、映像作品については100GBのUHD BD-ROMは読むことができる。
ところで、BDXLには4層メディアの規格もあり、こちらは128GBが容量上限となる。ちなみに、ソニーが放送業務向けで、最大128GBの光ディスクメディアをSony Professional Disc(XDCAM用)として供給しているものも、ベース技術はこれだ。
つまり、現行BD技術のまま光ディスクは128GBまでは増やせることになる。しかし、今世代ゲーム機で100GBメディアを、次世代ゲーム機にて128GBに拡張できたとして容量が十分というと……それは厳しいかもしれない。
現在、現行ゲーム機でもゲームの総インストールサイズは、大作ゲームでは150GBはあるとされ、100GBディスクに収録できないデータは、オンラインからダウンロードするような仕様になっていることが多い。
近年では、数は少ないものの、
「ファイナルファンタジーVII リバース」(2枚組)
「Horizon Forbidden West Complete Edition」(2枚組)
「Baldur's Gate 3」(PS5:2枚組)
など、1パッケージに複数枚ディスクを入れたパッケージ版もリリースされている。
ちなみに、先代PS4世代にも、
「レッド・デッド・リデンプション2」(2枚組)
「ファイナルファンタジーVII リメイク」(2枚組)
「The Last of Us Part II」(2枚組)
などのように、ディスク2枚組のパッケージ製品も存在した。
余談ついでに脱線すると、12cm光ディスクを採用したゲーム機の歴史において、最もディスク枚数が多かったパッケージ版はセガサターン用「ファンタズム」(8枚組)だとされる。この他、次点として初代PS用「ときめきメモリアル2」(5枚組)がある。さらに、これに続く事例としては、海外版のXbox Series X用の「Baldur's Gate 3」のパッケージ版が4枚組がある。
次世代のPS6時代に現行容量の12cm光ディスク技術を持ち越すと、同じようなことが起きる可能性は大きい。
片面の多層化技術はどこまでいけるのか
現行BD技術を4層化して128GBが上限ならば、もっと多層化できないのかという疑問が湧くかもしれない。
実際、2008年、BD開発に大きく貢献したパイオニアは、実験目的で、一層25GB容量のBD-ROMの16層モデルを試作したことがある。その総容量は400GB。

このくらいの容量があれば次世代機でも持ちこたえられそうだが、総数を増やすと光ディスク製造時のコストと歩留まりが悪くなる。この分野の専門家に言わせると、現実問題として、実用上は6層ディスクくらいまでが上限だと考えられているようだ。1層当たり33GBのBDXL規格の6層メディアを新設したとして200GB程度。PS6世代を生き抜くにはギリギリといった印象。ゲーム開発者からは「もう少し欲しい」といわれそうだ。
なぜ、安易に多層化ができないのか。
いくつかの理由がある。
読み取りに活用するレーザー光は目的層に到達するまでに、手前の複数の記録層を通過する。忘れてはならないのが戻ってくるレーザー光が、同じ層を再び通過することだ。
たとえば、例え話に出した6層目を読む場合、レーザー光はその上の5層を透過して記録層を読み出して戻っていくので5層×往復で10層分を透過していく必要がある。透過するたびに信号は損失していくので、層数の積み上げには限度がある。
また、多層メディアは製造時に貼り合わせ工程がシビアとなり、ディスクの厚みの公差条件も厳しいものになり、経年による反り現象についても未知の領域だ。3層ディスクまでは十年近い製造経験があるが、5層以上になると、ディスク量産製造メーカーとしても初めての挑戦に近い。
なので、量産民生品ディスクでは4層あたりが実用限度とされてきたわけだ。

では、4層当たりで大容量の光ディスクメディアは開発できないのだろうか。
12cm光ディスクに4層200GBのADは使えるか?
実はサーバーなどのデータバックアップ用途に対し、Panasonic主導で、BD技術を改良して開発した「Archival Disc」(AD)という12cmメディアが業務用の世界では実用化されている。

▲Panasonic側もAD事業は縮小フェーズに入っている
ADの開発にあたってはソニーも参画し、2014年に最初の規格が制定された。片面3層で150GBだが、実際の製品は表裏面の両サイドに記録層があったので1枚あたりの容量は300GBであった。またADは、カートリッジに内包させて利用する方式となっており、取り扱いイメージは従来のBD系メディアとは異なっている。ソニーはADをODA(Optical Disc Archive)という名称の独自カートリッジで運用するので、パナソニック側のADカートリッジとの互換性はない。また、ADはカートリッジに入れないで運用することは想定されていない。とはいえ、実際に運用されているディスクはライトワンスの一度だけ書き込めるBD-Rに近いメディアなので、これをROM化することは技術的には可能だろう。

ADの1層あたりの記録密度はBDの約1.5倍に向上されており、3層仕様で150GBに容量アップしている。具体的には、ADでは、トラック幅密度を約1.422倍、円周方向の線密度を約1.055倍に向上することで1層あたりの記録密度を50GBにまで拡大できているのだ。
これを4層化して運用すれば200GB。次世代ゲーム機のライフタイムを生き抜くのに、このADを民生実用化することで、なんとかなるだろうか。しかし、それは、口でいうほど楽ではないだろう。
というのも、このADを読み出すドライブ機器は、カートリッジ運用専用のディスクであり、ディスク単体で運用できるドライブは存在しない。
また、既存BDXLとは記録密度も異なることから、既存のBDXL準拠のBD-ROMドライブを流用できない。つまり、単体ADを取り扱える民生向けディスクドライブは新規開発が必要になる。とはいえ、AD用のドライブはBD系ドライブと同じ、波長405nmの青紫系レーザー技術を基盤とした光ディスクのため、全くのゼロからの新規開発というわけでもない。この新光学ドライブを、民生向け実用化に向けて、ソニーとマイクロソフトが本気を出して共同開発を行えば、コスト的にもなんとかできるかもしれない。本気を出す確率は、皆さんの想像におまかせしたい(笑)。
そもそも光ディスクはインストールメディアとして最適なのか
なお、ADは、第二世代が完成しており、こちら一層当たりの容量が1.6倍の83.3GBに増えており、3層ディスクで片面250GBの容量を誇る。4層化できれば333GB。こちらは、容量的にさらに有望そうだが、そもそも、BD-ROM系技術を転用したとして、これを次世代ゲーム機用の光ディスクとして使えるだろうか。
ゲームディスクを直接読み出してゲームを実行していたPS3/Xbox360世代とは違い、現在の家庭用ゲーム機では、ゲームプレイにあたっては、ゲーム本体を光ディスクからゲーム機本体へインストールが必要になる。光ディスクの大容量化を仮に解決できたとして、その大容量データをゲーム機本体にインストールする時間も、その光ディスクメディアの重要な評価ポイントとなる。
第二世代ADドライブは、一般的なBDドライブの約56倍速相当で、250MB/sで読み込めることになっている。しかし、ADドライブは、複数のディスクを同時並列で読んだり、ソニーのODAに至っては、メディアの裏表を4基のレーザーヘッド(総計8基)で並列で読み上げる仕組みだったりして、一般的なBDドライブのヘッドとは構造が全く異なる。あり得ないが、超速読み出しシステムで仮に200GBのゲームデータをインストールすると、200GB÷250MB/s≒約13分強といったところでかなり速い。
項目 | 一般BD-ROM DL | UHD BD-ROM 100GB | Archival Disc 300GB | Archival Disc 500GB |
|---|---|---|---|---|
代表規格・世代 | BD-ROM 2層 | BD-ROM Version 4 | Archival Disc Ver.1.0 | Archival Disc Ver.2.0 |
主用途 | 映画、ゲーム、ソフト配布 | UHD映像、ゲーム配布 | 業務用長期保存 | 業務用長期保存 |
媒体形式 | 再生専用ROM | 再生専用ROM | 追記型・WORM | 追記型・WORM |
公称容量 | 50GB | 100GB | 300.00572GB | 500.12357GB |
2進表記の容量 | 約46.57GiB | 約93.13GiB | 約279.40GiB | 約465.78GiB |
記録面 | 片面 | 片面 | 両面 | 両面 |
記録層数 | 片面2層 | 片面3層 | 片面3層×両面=合計6層 | 片面3層×両面=合計6層 |
1層当たり容量 | 約25GB | 約33.33GB | 約50.00GB | 約83.35GB |
ディスク直径 | 120mm | 120mm | 120mm | 120mm |
公称厚さ | 1.2mm | 1.2mm | 1.2mm | 1.2mm |
レーザー波長 | 405nm | 405nm | 405nm | 405nm |
対物レンズNA | 0.85 | 0.85 | 0.85 | 0.85 |
光学世代 | Blu-ray世代 | Blu-ray世代 | Blu-ray世代 | Blu-ray世代 |
光の入射方向 | 片側のみ | 片側のみ | A面・B面の両側 | A面・B面の両側 |
基本トラック方式 | ROMピット列 | ROMピット列 | ランド&グルーブ記録 | ランド&グルーブ記録 |
トラックピッチ | 0.320µm | 約0.320µm | 0.225µm | 0.225µm |
BD比のトラック密度 | 1.00倍 | 約1.00倍 | 約1.422倍 | 約1.422倍 |
公称チャネルビット長 | 約74.5nm | 約55.9nm(換算値) | 53.0099nm | 34.216nm |
公称データビット長 | 約111.75nm | 約83.9nm(換算値) | 79.5149nm | 51.324nm |
BD 25GB層比の線密度 | 1.00倍 | 約1.33倍 | 約1.41倍 | 約2.18倍 |
BD 25GB層比の面密度 | 1.00倍 | 約1.33倍 | 約2.00倍 | 約3.33倍 |
チャネル変調 | 17PP | BD系高密度物理フォーマット | 17PP | 110PCWA |
誤り訂正 | LDC+BIS | BD-ROM系ECC | 64KB LDC+BIS | 256KB Extended-RSPC |
フォーマット効率 | ― | ― | 81.738% | 87.850% |
規格・製品上のデータレート | 1倍速=36Mbps | 最大144Mbps級 | 最大ユーザーデータ359.65Mbps | 最大ユーザーデータ359.65Mbps |
隣接トラック/符号間干渉対策 | 通常のBD信号処理 | 高線密度再生処理 | クロストークキャンセル+PRML | 同左+高度な符号間干渉除去 |
通常BDドライブとの互換性 | 対応 | UHD BD対応ドライブが必要 | 専用ドライブが必要 | 専用ドライブが必要 |
▲光ディスクの仕様
仮にADがゲーム業界に採用されたとしてもレーザーヘッドは単機だろう。1ヘッドあたりは単純計算で250MB/s÷8ヘッド≒31.25MB/sといったところで、この速度200GBをインストールすれば106分強と言ったところだ。
さて、BDドライブの等倍速は4.5MB/sで、PS5のBDドライブは10倍速(Xbox Series X|Sは6倍速)なので、理論上の読み込み速度は最大45MB/sということになる。
今、BDXLメディアを仮に6層化して200GB化したとして、10倍速の45MB/sで仮に200GBのゲームデータをインストールするとすれば、200GB÷45MB/s≒約74分強といったところ。
ADもBDも1Gbps契約のインターネット回線でダウンロードしたときと同じくらい……といったところ。
現状で、光ディスクドライブの倍速度数は20あたりが上限と言われているので、仮に20倍速BD-ROMドライブが完成したとすると200GBのデータインストールも37分強。コストの掛かるマルチヘッドやら8並列レーザーヘッドの搭載よりは、現実的だが、ゲーム機メーカーとしては、あまり光ディスク周りにコストを掛けたくないというのが実情ではないだろうか。
現行メディアの複数枚ディスク封入が最も現実的な選択か
ところで、近代の大作ゲームデータの50%~60%がテクスチャデータだといわれている。そして、次世代機では、AI支援のテクスチャ圧縮技術であるニューラルテクスチャ圧縮技術が利用される見込みとなっているため、この技術を有効活用することで、従来の光ディスクの容量のまま、実サイズ200GBに近いデータを収納できるようになるかもしれない。
なお、ニューラルテクスチャ圧縮は、従来のBCn(S3TCベースのテクスチャ圧縮技術)に対して、実効圧縮率で約5倍は圧縮率が上がるとされている。

▲光ディスクとゲーム機の歴史。実は、現行のブルーレイ時代が一番長く活用されている
ニューラルテクスチャは、圧縮状態でメモリに配置し、これをリアルタイムでテクセルサンプルできる……と言われてはいるが、実際には推論アクセラレータへの負荷が集中するので、システムの推論アクセラレータをニューラルテクスチャの取り扱い専用に割り切って使えれば、それも可能だとされる。だが、「超解像処理だ」「レイトレノイズ低減だ」と推論アクセラレータへの依存度が高くなる次世代機では実際問題、ニューラルテクスチャ技術をリアルタイム運用するのは厳しいと思う。
次世代機では、実用上は、ニューラルテクスチャ圧縮されたテクスチャデータを、インストール時に展開することになる場合が多くなるとは思う。ゲーム機メーカーとしては、もし光ディスクを継続するにしても、新光ディスクドライブの新造に追加投資するよりも、こちらの道を選択しそうだ。
結局、光ディスクドライブは、次世代ゲーム機に内蔵搭載(さすがにもうない?)、あるいは周辺機器として出したとしても、現行の光ディスク規格の持ち越ししか有効な選択肢がないように思える。
もちろん「インストール時間については、先代と同等(ニューラルテクスチャ圧縮技術併用時)か、もう少し長く待つ(光ディスク複数枚時)ひたすらじっと待ちます」ということにはなるが。
そうなれば遅かれ速かれ、2枚組、3枚組のパッケージ版が増えることになり、いずれユーザー側から「光ディスク版はもういらない」という風潮にもなることだろう。
ソニーはこのタイミングを待てば、今ほど、ユーザーからの反発を受けなかったかもしれないが、諸事情でそうもいかなくなったので、今回のような早期決断をしたのだろうが。













