ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)

テクノロジー Other
石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

  • homepage
  • facebook
  • X

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

特集

ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)
  • ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)
  • ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)
  • ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)
  • ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)
  • ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)
  • ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)
  • ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)
  • ネットで「味覚」を共有するドコモの技術を味見してみた。6G時代を見据えた取り組みに期待(石野純也)

ドコモは、同社が取り組む先進技術をお披露目する「docomo Open House'24」を1月17日、18日の2日に渡って開催しました。

ドコモは次世代通信方式の6Gを見据え、無線技術だけでなくさまざまなユースケースの開拓に取り組んでいますが、その1つとして、「味覚の共有」ができる技術を開発。イベントの目玉としてこれを展示しました。筆者もこの技術を体験できたので、レポートをお伝えします。

▲docomo Open House'24が、1月17日、18日に開催された。味覚を伝える技術は、その目玉の1つ

勘違いしやすいのが、この技術は単純にネット経由で味を伝える技術「ではない」ということ。例えば、ハンバーグの「味」を送信し、受け手側が個人によってそれぞれの味覚でその味を確かめるという技術ではありません。

「味」の共有ではなく、「味覚」の共有をうたっているのは、そのためです。ドコモの開発した「人間拡張基盤」を通じて、味を変換して伝えることが技術の特徴と言えるでしょう。

具体的に言えば、自分と自分の子どもでは、味の感じ方が異なります。自分がおいしいと感じたハンバーグでも、子どもにとってはしょっぱすぎたり、すっぱすぎたりすることが起こりえます。

人間拡張基盤でこの差を変換することで、同じハンバーグでも子どもが食べた時のような味を体感できるというのが、この技術の新機軸と言えます。

▲味をそのままネット越しに伝えるのではなく、相手の感じ方も含めて伝送するのがこの技術の特徴だ

そのためには、まず相手と自分の味の感じ方をキャリブレーションする必要があります。これは、検査などの厳密なものではなく、ザックリとしたアンケートに答えていく形で行います。「ハチミツを飲める」だったり、「ゴーヤが苦手だ」だったり、「ブラックコーヒーが苦手だ」といったような設問に対し、「全くそう思わない」から「非常にそう思う」までの5段階で回答していく方式。

この結果に基づき、「苦味」「甘味」「酸味」「塩味」「うま味」の感じ方の強弱に基づいた「味覚感度」を作成します。

▲味覚をキャリブレーションするため、まずはアンケートに回答していく

伝える味をセンシングデバイスで数値化し、それをこのデータに合わせてチューニングすれば、あとはアルゴリズムに基づいて味を調合するだけ。

再現は、味の基本となる上記5つを調合し、それを出力する形です。この味を再現する技術は、明治大学総合数理学部の宮下芳明研究室とH2Lが開発したもの。

ここにドコモの人間拡張基盤を組み合わせて、相手の感じ方に合わせた味を出力するようにしたことが、この技術の特徴です。

▲測定した味覚感度に基づき、味を変換して調合。5つの味を調合し、相手が感じた味に近いものを出力する

実際、筆者は、子どもがトマトスープを食べたときに、どう感じるかを試すことができました。先に挙げたアンケートに答えた結果、筆者の味覚感度は、甘味に対する反応がよく、苦みにはやや鈍感なようです。

確かにブラックコーヒーは毎日欠かさず飲んでいますし、それを苦いと感じたことはほとんどありません。多少焦げた魚でもバリバリ食べてしまうため、これは当たっているような気がします。甘いものも大好きなので、ここまで感度が高いとちょっと困りそうではありますが……。

それはさておき、実食というか実飲したトマトスープは、最初、非常にすっぱく、頬をすぼめてしまったほどです。通信相手となる子どもも、酸っぱいと感じていた模様。

デモのため、リアルタイムに相手がいたわけではありませんが、映像でそれが伝えられていました。実際、子どもは味を感じ取る「味蕾(みらい)」の数が多く、その感度は大人の数倍とも言われています。苦みや塩味、酸味などを強く感じ取ってしまうようです。

▲筆者の味覚感度。このデータを元に、子どもが感じた酸っぱさを再現している。酸味の感じ方が子どもと比べて弱いため、調合では、そういった部分を強調したようだ

筆者が普通に飲むぶんには、やや酸っぱさを感じるおいしいトマトスープですが、子どもにとっては罰ゲームのような酸っぱさになるというわけです。

「こんなに酸っぱかったのか」ということが分かったという意味では、味の感じ方が伝送できたと言えるのではないでしょうか。この技術を応用すれば、それぞれの人に合わせて最適な味をチューニングすることもできそうです。

ドコモがこのような人間拡張基盤に取り組んでいるのは、6G時代のユースケースを開拓するため。5G以上に高速、大容量、低遅延になったネットワークでは、現在のネットのような視覚や聴覚に頼った情報だけでなく、感覚すべてをリアルタイムに伝えることも視野に入ります。

これを映像コンテンツやメタバース空間に活かすことで、体験をよりリッチにしていけるのではないかというのがドコモの考えです。

同様のコンセプトに基づき、昨年はハプティクスデバイスを使って触覚を再現するデモを行っていました。また、一昨年は動作共有としてロボットの遠隔操作を披露。一連の技術はdocomo Open Houseだけでなく、スペイン・バルセロナで開催されるMWCなどでも披露しており、来場者の注目を集めていました。

この味覚の共有も、2月に開催される「MWC Barcelona 2024」でグローバルデビューを果たす予定になっています。

▲昨年は、ボール状のデバイスを使って触覚を伝えるデモを披露した。写真はMWCで撮影したもの

5Gのエリア展開が不十分でパケ詰まりが起こってしまっている中、6Gと言われましても……という気持ちにはなりますが、世界的に見ても、6Gの技術開発は進んでおり、2023年12月には標準化団体3GPPが仕様計画の策定に着手しています。

仕様そのものの策定ではなく、標準化の予定を策定する段階ですが、商用化は2030年前後。巻き上がる可能性もウワサされており、早ければ2028年ごろという見方もあります。

▲6Gは2030年を前に商用化されるペースで進んでいる。その前段として、必要なスペックを見極めるため、ユースケースを示している。写真のスケジュールは2023年2月時点のもの

その前段として、6Gが広がったときの世界観を示しておく必要があるというわけです。5Gで諸外国に後れを取った日本は、その反省を生かし6Gで巻き返しを狙っています。

ドコモが前のめりでユースケースを示しているのも、6Gの標準化や商用化で主導権を取るための地ならしをする意味合いがありそうです。

《石野純也》

石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

  • homepage
  • facebook
  • X

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

特集

BECOME A MEMBER

テクノエッジ友の会に登録しませんか?

今週の記事をまとめてチェックできるニュースレターを配信中。会員限定の独自コンテンツのほか、イベント案内なども優先的にお届けします。