2023年ベストバイ:ヘッドホン・スピーカー編。技術トレンドの空間オーディオ、オープンイヤー型は新世代へ(本田雅一)

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本田雅一

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ジャーナリスト/コラムニスト

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ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析。

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2023年ベストバイ:ヘッドホン・スピーカー編。技術トレンドの空間オーディオ、オープンイヤー型は新世代へ(本田雅一)
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今年のベスト製品を選ぶといったところで、スマートフォンの序列を考えても致し方ない。

いや、Androidを採用する製品の中での論評はできるだろうが、まずは価格帯があまりに広く、なかなか一列に並べての評価を端的に行うことは難しい。(サムスンが今年はかなり頑張ったとは思うのだが)

そんなわけでスマートフォンについては通り過ぎ、よりカジュアルな製品や、筆者が普段あまりTechnoEdgeでは言及してこなかった製品ジャンルについて、私的なベストバイ製品を集めてみることにした。

編集部も許可してくれたこともあり、三つのストーリーに分割しようと思う。

ベストバイ製品を紹介すると始めたが、実際にはテクノロジートレンドに寄り添いながら、それが製品にどんな違いをもたらしているかについても話をしていきたい。

オーディオ機器とテクノロジートレンド

まずはオーディオ関連からだが、少し背景について話をしておこう。

実はこの5年ほど、いやもう少し前からかもしれないが、大きくトレンドが変化している。それはデジタルでの音声信号技術の進歩だ。音声信号処理は昔から大きなトレンドは変化していないが、”いかに精度を維持するか”のアルゴリズム面とハードウェアの実装面、両方での進化は大きかった。

簡単にいうと、複雑な信号補正をデジタル領域で行っても、本来の音響情報を失いにくくなった。プロ向けの編集コンソールなどではずっと昔にあった改良だが、現在はスマホの中での信号処理や、ちょっとしたワイヤレススピーカーの中での処理品位も上がった。

このことと信号処理そのものの速度向上が重なり、さまざまな変化が起きている。

1万円程度の卓上小型スピーカーでも、そこそこバランスの良い音がしたり、とても音が良いとは思えない歪な形状、ペラペラ素座の小型スピーカーでも”あれ?期待よりはいいかも?”と思えるのも、音声信号ソリューションの質が上がったうえで、より幅広い製品に搭載されているからだろう。

そんなトレンドがある中で、別のトレンドとしてああるのが”空間化”だ。

ここでいう空間化とはデータの空間化。音の場合は空間オーディオということになるが、空間オーディオはこれまでのサラウンドとはちょっと意味合いが違う。そんなことが理解できると、ちょっとばかりオーディオの”技術面”にも興味が湧いてくるかもしれない。

●”目から鱗”だったSONOS Era 300

ストーリーの出発点はSONOS Era 300だ。

ワイヤレススピーカーメーカーのSONOSは、南カリフォルニアのサンタバーバラという風光明媚なところに本社がある。

全くの余談だが元々メキシコだったカリフォルニア州はスペイン語の地名が多く、”サンタ”とつくのは女性名詞の都市。これが”サン”だと男性名詞になる。そしてサンがつく都市がビジネスや交易の中心地であるのとは対照的に、サンタがつく街はゆったり静養できる風光明媚な土地だ。

と、まったくスピーカーに関係ないと思うだろうが、そんな場所で生まれたからこそ、SONOSはスペックや通り一遍等の機能に拘らない製品を生み出すのだろう。

SONOS Era 300は実に面白い製品だった。ドルビーATMOSフォーマットで配信される空間オーディオのストリームを、たった1台のコンパクトなWiFiスピーカーで実現しようというのだから、本気ですか?と言いたくなった。

しかし実際に製品を聞いてみると、その趣旨がすぐに理解できた。


このスピーカーは”空間オーディオ”に特化しているのだ。念のために言葉を添えるなら、”サラウンド”の再生能力はない。5.1チャンネルなどのサラウンド音声は、そのチャンネル数分のスピーカーを理想的に配置したとき、指定された位置で聴くと立体音響が楽しめる仕組みだ。

SONOS Era 300が対応するApple MusicはドルビーATMOSを用いているが、他の規格でも基本は同じだ。オブジェクトオーディオと言われる音声フォーマットを用い、幾つもの音声トラックを別ストリームで記録し、それぞれのストリームの音響空間内での配置や音響エフェクトなどを決めたメタ情報をそえる。

つまり”音場表現までを含めた音楽の設計図”空間情報として表現しているだけなので、最終的に各スピーカーからどんな音が再生されるかは、スピーカー数や配置、設置環境などによって異なる。

家庭用AVアンプなどで使われている”民生用”ドルビーATMOSシステムは、7.2.4、5.1.2、9.2.6など、サラウンドシステムに近似するいくつかのレイアウトが規定されているが、これはその方がわかりやすく設定も容易になるためだ

Era 300では、1台のスピーカーに多様な特性のドライバユニットをいろいろな方向に配置し、それぞれで再生する音や位相、指向性などを考慮しながら、空間オーディオの設計図に合わせて”それっぽい音場”を作り出す。

ちなみにEra 300を二台使うと、さらに音場表現が豊かになるが、これも表現するための道具(ドライバユニット)が増えるからに他ならない。(アップルの場合、MacやiPadなどの内蔵スピーカー、AirPodsシリーズなどで、それぞれの特性に合わせて同様のリアルタイムのレンダリングを行うようOS内に信号処理プログラムが入っている)


さらに、ATMOS対応サウンドバーのSONOS arcやサブウーファーSubなどと組み合わせることも可能で、そうなってくるといわゆる”サラウンド”も再生できるようになるが、空間オーディオという設計図をもとに音場表現を操れるのは、明確な意思に基づいた指向性のユニットを多方向に配置し、そこに信号処理で適切な信号を送ることで空間を表現できるということだ。

この手法はまさに目鱗であった。そしてEra 300。価格はそこそこの値段がするが、シングルボディのスピーカーとしては、とても心地よい音楽を楽しませてくれる。間違いなくおすすめだ。Era 100を検討している方も、少し頑張って300にすると幸せだと思う。

●”設計図をもとに再生時に音を計算する”からできること

少し前ならば、こんな設計を行おうにも、演算が深くなりすぎて精度が落ちる(音質が落ちる)こともあって、あまり積極的にSONOS Era 300のような製品は作れなかっただろう。作ったとしても価格が高くなったかもしれない。

しかし現代の信号処理プロセッサは高精度で性能もいい。

ソニーのAVアンプ「STR-AN1000」は、見た目や主要なスペックこそ前モデルと大きく変化していないように思えるが、実は極めて大きな違いがある。

それはTH-A9などで好評の360 Spatial Sound Mappingが組み込まれていることだ。


360 Spatial Sound Mappingは理想的な位置にスピーカーを設置できなくとも、まるで理想的な位置に配置したかのような音場を実現できる仕組みだ。波面合成というスピーカーが出す音同士の干渉を用いた技術で、当初は音と映像が同期したアート表現などインスタレーションなど向けにも使われていたものだ。

配置されているスピーカーの距離、高さ、方向などを識別する測定機能を内蔵しており、そこで計測した情報をもとに、実際のスピーカー配置よりも大きく理想的な音場形状の、広大かつ立体的な音場を生み出してくれる。

これも信号処理技術の進歩の一つだが、実はこれは単に”標準的なドルビーATMOSの配置を真似るため”のやり方に過ぎない。標準的なドルビーATMOSのスピーカー配置は、従来のステレオや5.1、7.1などのオーディオトラックとも互換性があるため、これも重要な機能であることには違いない。

”規格で決められた数のスピーカーを決められた場所に置く”というのは、単純なようでいてとても難しい。かつては信号処理技術のレベルが低く、補正しきれなかったような場合でも音場補正がうまく効くようになっているが、中でも360 Spatial Sound Mappingは特別な効き味。

このシステムにアナログの7.1(5.1.2)チャンネル出力がないことが、実に悔やまれる。本機のアナログアンプもとても優秀なのだが、既存のスピーカー、パワーアンプなどを所有している、ATMOS前に構築したシステムをアップグレードするための、理想的なATMOSプロセッサになるはずなのに!

古き良き時代の9.2チャンネルシステムを最新のATMOS対応にするためのプロセッサをソニーさん作ってくださいませんか(無理とはわかっているけれども念のために請願)。

そして、このシステムの信号処理能力の本領を感じさせるのが、360 Reality Audio(360RA)の再生時だ。

360RAはATMOSのように、7.1.2などのスピーカー配置を規定していない。その場に配置されているスピーカーの位置、(設置環境を含めた)特性などをもとに、MPEG-Hで規定された設計図をもとに音場を作り出すようリアルタイムに演算して音を作り出す。

360RAは配信サービスがAmazon Music Unlimitedとnugs.netの二つしか選べず、また対応楽曲もドルビーATMOSの方が多いのだが、両方に対応した楽曲を再生してみると、極めて緻密に360RAの音場が再現される。

これを聴いてしまうと、再び「ソニーさん、既存のAVシアターシステムをアップグレードする360 Spatial Sound Mappingプロセッサを単体で売ってくれない?」なんて思っちゃうなぁ。

●イヤホン、ヘッドフォンはどう?

ところで”欲しがっている人が多い”という意味では、イヤホンやヘッドホンの方がずっとユーザー数が多く、そもそも自分ごととして”何がいいの?という興味を持っている人も多いだろう。

ちなみに筆者が”個人的に”気に入って使っているのは、ブガッティブランド(単に車好きという個人的な趣味を反映したもの)を冠したMaster & DynamicsのMW-08S(イヤホン)と、MW-75(ヘッドホン)だ。いずれもワイヤレス、aptX-Adaptive対応、ノイズキャンセリングなどの機能を備えているが、気に入ってるのは音質。

ベリリウムを用いたドライバと、歪感を抑えてワイドレンジで情報量をたっぷり引き出しながらも、耳あたりよく、しっかりとピラミッドバランスの音域表現を持ち、広い音場を感じさせる上手な音作りは、解析的に音を聴き始めると好みが分かれるかも知れないが、ひたすらに音楽に長時間浸りたい時にとても心地よい。

少々高価な上、”今年のトレンド”として紹介するつもりはない(ベースモデルは昨年から発売されていた)が、単純に予算を考えずに良いものが欲しいなら(オリジナルのブランドやランボルギーニ、ルイヴィトン版なども含め)オススメだ。



しかし、もっとカジュアルな価格帯となると、上記の”空間化”トレンドが少しばかり、選択に迷いが出てくる。Apple Musicなど空間オーディオのライブラリが充実したサービスと契約している、そして空間オーディオ化の進みが日本よりも早い、主に米国の音楽を好んでいるなら、新しく買うなら空間オーディオ対応しかないと思うのだ。

もちろん、過去のCDからリッピングしたデータやハイレゾのステレオソースをたくさん持ってるというならば、空間オーディオをそこまで重視しなくていいのだろうが、イヤホン、ヘッドホンは映像作品を楽しむ上でも使うことが多いはず。

そんな時、空間オーディオ対応かどうかは大きな差だ。

となると選択肢はアップルとビーツに絞られてくる。

本誌でもレビューしたBeats Studio Proは、コンパクトで軽量、使いやすいものの、音質は正直言って微妙。特にステレオ再生時の音質は、同価格帯のソニー製に比べると格段に落ちるのだが、iPhoneとの組み合わせで空間オーディオに対応するというボーナスがある。


AirPods Maxにはないアナログケーブルでの接続にも対応するなど適応範囲が広いのも魅力で、この辺りはレビュー記事に詳細に書いた。今後、空間オーディオ対応はまだまだ進んでいくだろうことを考えれば、よほど”音質が気に入った”とならない限り、空間オーディオ非対応製品は選びにくい。


そうした意味では、昨年登場したソニーのWH-1000XM5や今年発売のWF-1000XM5は”空間オーディオの対応度がやや微妙(正確には360RA再生時はDeezerなどで空間オーディオの音楽を楽しめ、対応するAndroid機との組み合わせで映像作品の空間オーディオ再生も可能だが利用場面は限られる)”ということを差し置いたとしても、コスパ的に極めて高い魅力的な音を出す。



特にWF-1000XM5はノイキャン能力を突出して訴求しているが、ノイキャン能力のレベルは他社も底上げされてきていることもあり、ものすごく魅力かといえばそうは思わない。しかし音質は、完全ワイヤレスとしては高いレベルにあり、細かい音のニュアンスまで伝える設計で、ローからハイまでのバランスも綺麗につながっている。

市場シェアを見れば変わる通り、iPhoneユーザーが多い日本市場では空間オーディオ対応や使いやすさなども含めAirPodsシリーズが極めて強いのだが、そんな中でも音質で選びたくなる製品。機能的にも”穴”はほとんどない。


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●別テーマに分けたい”オープンイヤー”型

技術的には今年のテーマでもトレンドでもないのだが、ここ数年で増えてきたのがオープンイヤー型のワイヤレスイヤホン。

少し前までは骨伝導型ばかりだったのが、指向性を持たせたり、筐体設計を工夫することで漏れ出る音の位相を打ち消すなどの設計技術を用いることで、ダイナミック型ドライバでオープンイヤー型を実現する製品が増えていた。

代表的にはOladanceのOWS1(現在は第2世代モデルに切り替わっている)が、その火付け役だし、元祖を遡るとソニーからスピンアウトしたエンジニアが作ったambieが先鞭をつけたコンセプトである。



OWS1以降の製品が注目された理由は、信号処理の品質が上がったことで、仕組みから想像するよりもはるかに高品位な音が楽しめたこと。それに骨伝導に比べると駆動時のエネルギーが少なくて済むため、電池持ちが良いなどの利点もある。

そんなオープンエア型のイヤホントレンドに、大きな影響を与えるある通達を、この夏に警察庁が各都道府県の警察および東京警視庁に出した。それは自転車に乗っている時のイヤホンの扱いについて。

道路交通法の趣旨としては、イヤホンやヘッドフォンがダメというのではなく、周囲の状況を把握できないような音量、耳を塞ぐような器具を使って自転車に乗ってはいけませんということであって、周囲の状況を察知できるならOKだよと通達している。

とはいえ、実際の運用は各警察署に任されている上、条例で禁止されている場合も合うようなので、このテーマは少し別に分けてコラムにしたいと思っている。

ちなみに今年はOladance Proなど各社から新世代の製品が登場しているが、その中ではダントツにShockzのOpenfitの具合がよく、筆者もロードバイクに乗る際には愛用している(ほんのりと音楽も聴いているが、主にはiPhoneの自転車ナビの音声を聴くため)。


何がいいって、圧倒的なフィット感の良さ。フルオープン型の良さは開放感と装着時の軽快さ。そこを重視するなら一択だ。

ということで、今年もあと少しだが、次回はアップル製品の今年を振り返って、周辺アクセサリなども含めた振り返りと、個人的なベストバイを紹介していく。

と書きつつ、結論を先に書いてしまうが、今年のアップル製品、さすがだなぁと思ったのはM3搭載のiMac 24インチモデルでした。また、製品ではなく追加機能ではあるけど、iPhoneとApple Watchを連携させたサイクリングのサポート機能も気に入っている。


なぜそこに?という話は、また明日!

みなさん、良いクリスマスの週末を。

《本田雅一》
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