初代Qrioの「サ終」で考えるIoT製品とスマートロックの現在 (本田雅一)

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本田雅一

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ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析。

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日本国内の個人向けスマートロック市場では先駆者的存在だったQrio(クリオ)が、最初の製品「Qrio Smart Lock(Q-SL1)」向けアプリ提供を7月31日で終了すると発表した。利用するためのネットサービスの提供、サポート窓口での問い合わせ受け付けも10月31日で終了する。

Q-SL1はBLE(低電力Bluetooth)でスマートフォンと連動するスマートロックだが、ネットサービスと連動した機能設計になっており、またWiFiに接続するための中継ハブなどのアクセサリもあるため、利用を続けることはできなくなる。

Qrioでは既存ユーザー向けに第2世代製品のQ-SL2を割引販売すると発表している。スマートロック本体以外にWiFiハブやQRIOキーなどのアクセサリを利用している場合、引き続き同じアクセサリを使いたい場合はこうしたサービスでの買い替えを検討するのもいいかもしれない。

ただし、業務用の高価な製品が中心だったQ-SL1発売当時(2015年春)とは異なり、個人向けの安価なスマートロックは選べる時代になった。あらためて自分に合ったスマートロックを選び直すのもいいだろう。

と、冷静に書き進めているが、それまで生活の一部でもあったスマートロックが、発表から3か月足らずで「使えなくなる」と言う事実は、消費者の目線から言えばかなりショッキングなことだ。

まずはこの辺りを掘り下げた上で、Q-SL1の買い替えについて考えを進めていきたい。ちなみに筆者はQ-SL1を使ったこともあるが、競合製品のSesame mini、Sesame 3、Sadiot Lockを使ってきて、現在はSadiot Lock2を玄関に装着している。

「IoTとはそういうもの」とばかりは言い切れない状況のマズさ

本誌の読者なら、そもそもモノがネットに繋がるというIoTを考えるなら、永遠にサービスを維持できないのだし、いつかはこうなるのだと覚悟すべきことだ、と思うかもしれない。

Q-SL1も発売から8年目に入り、モデルチェンジによる最終出荷からも5年が経過している。アプリやサービスを維持するためのコストは原価として盛り込まれているはずだが、サービス料金を別途支払うことがない買い切り型製品の場合、それもいずれは枯渇する。

スマートロックに限らず、アプリやサービスと連動する機器は、ハードウェア単体で動作する機能を除き、いずれ使えなくなる可能性がどんな製品にでもある。

想定する以上に製品が売れ、開発費などが償却されれば原価は下がり、その分、アプリ、サービスの維持が楽になっていくが、逆に売れなければあっという間にサービス終了の憂き目に遭うこともあるだろう。

一般論としてそれらは理解できるものだが、今回はQrioの対応の拙さが目立った。

まずQ-SL1がサービス終了の発表時でもAmazonなどで販売されていたことだ。Qrioの視点では5年前に出荷が終了している古い製品だが、現在も在庫を持って販売している業者が存在しており、それらを購入した消費者は「買ったばかりなのに終了」となってしまう。

Qrio側ではコントロールできないのだろうが、モデルの切り替え時に相当数の在庫を払い下げるなどして現金化したのではないか?と疑われるところだ。

いずれにしろ、最終出荷から5年以上経過した現在でも旧モデルが販売されていることはQrio自身も把握しているはずで、ネット流通事業者などと協議した上での対策が行われたのか?アナウンスからアプリ配布停止までの期間が3か月に満たないプランで良かったのか?と疑問に感じるのは筆者だけではないはずだ。

また競合他社の製品を見れば、どの製品も同じメーカーの製品は同じアプリ、同じサービスで動かしている。製品全体の作り方が同じならば共用できるはずで、第2世代製品が継続販売されているにも関わらず、第1世代向けのアプリ、サービスが終了されることへの疑問もある。

サポート終了の理由、今回の終了プランなどを総合的に見ると、Q-SL2は現行製品であるため、Qrioが事業を継続する限りはサポートが続けられるだろう(しかもソニーの100%出資である)。ただ、第3世代モデルが登場したあとは、いずれはサポートが終わるのではないかという懸念を抱かざるを得ない。

具体的に何ができたのかは、Qrioが抱える事情もあるだろうが、他のIoT機器の信用にも影響しかねない事例だけに、「第2世代ではどうなっていく」と事前に見通しをアナウンスするなど、不安を取り除く必要はあるのではないだろうか。

Qrio以外にも目を向けると?

さて少々重苦しい話になったが、いずれにしろ初代モデルのオーナーは買い替えが必要だ。

Qrioの提供する割引サービスを使うのも手だが、Q-SL1とほぼ同時期に参入したCANDY HOUSEの個人向けスマートロック「Sesame」シリーズには、極めて導入しやすい安価なモデルもある。

最新モデルのSesame 5は税別3980円。Bluetoothでの接続APIが公開されている上、制御アプリのオープンソース化も行われている。

サービスやアプリは旧世代製品と共通化されている上、ユーザー規模も決して小さくないため、今後の継続性という意味でも(サービス停止の場合は一部機能が使えなくなるだろうが)、少しは安心できるのではないだろうか。

別売りのWiFiモジュールを使うことでAlexaやGoogleアシスタントが利用できるほか、Matterに対応予定なのでSiriからも操作が可能になる見込みだ。弁当箱型の錠前を含め、大多数のドアに対応できる。

もっとも、筆者が実際に使っているのは、ミネビアミツミのSadiot Lock2というもの。実はこの製品の第1世代からのユーザーだ。第2世代となりスマートフォンとの接続速度が向上し、機能も増えたのだが、実はアプリ側での対応も多く第1世代のままでも使える機能は少なくない。

そうした意味では「ハードウェアも進化するけど、基本的なサービスとアプリによる機能」は世代交代後も進化し続けることを体現していると言えるだろう。

老舗の業務用機器を扱うミネビアミツミが、鍵の専門家であるユーシン・ショーワと協業して作っただけあり、やや大柄だがサムターンも軽快。作りの良さを感じて導入している。

筆者がこの製品を選んでいる理由は、大柄な代わりにバッテリが2バンク用意されており、片方が電池切れになるとシリアルにもう片方にバトンタッチする仕組みがあるから。電池切れで動作しないリスクを下げられる。

またGPSで設定した距離(デフォルトでは150メートル)離れていた時、ロックが閉まっていない場合に警告を出し、設定によってはそのまま自動で鍵をかけてくれる。

タイマーによる自動ロックでは、スマホも鍵も持たずにコンビニに出かけて締め出しをくらうことが多かったダメ人間の筆者にはピッタリ。

ドアに近づくと自動で鍵が開くハンズフリー開錠も、GPSで近づくことで機能がオンになり、さらにBluetoothで捕まえると開錠する二段構えで、筆者がそれ以前に使っていたSesame 3(最新モデルはまだ使ってない)よりも確実に素早く開けてくれる。

どうやら団地などのスチール扉に多い弁当箱型の錠には対応していないようだが、それ以外はほぼカバーしている。

もちろん、従来の使い勝手を拡張するというならばQ-SL2を選ぶのもいいだろう。しかし、スマートロックは選べる時代になったのだから、視野を広げてみるのもいいのではないだろうか。



《本田雅一》
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