マイクロソフト、Call of Dutyはニンテンドースイッチにネイティブ移植できると「確信」。英当局の「技術的限界がある」との指摘に反論

ゲーム Microsoft
Kiyoshi Tane

Kiyoshi Tane

フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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Image:Activision Blizzard

マイクロソフトはゲームパブリッシャー大手アクティビジョン・ブリザードを買収する計画を実行に移すため、世界各国や地域の規制当局から許可を得ようと奔走しています。

その中でも、焦点になっているのが超人気IP『Call of Duty』(CoD)のゆくえです。本シリーズはゲームプラットフォーム、さらにはゲーム定額制サービス(サブスクリプション)競争の帰趨まで左右しかねない影響力を持つことがその理由。CoDを手中に収め市場を独占するのではないかとの疑いを解くべく、マイクロソフトはライバル企業に10年にわたるライセンス契約の提供を申し出て、実際に任天堂やNVIDIAと契約を締結していました。


しかし、現世代ゲームハードウェアの中でもNintendo Switchは2017年といち早く発売されたほか、据え置き機と(消費電力や熱容量の制限が厳しい)携帯機を兼ねたフォームファクタとあり、性能が控えめです。

「CoD」シリーズ最新作は常に表現力の上限をめざす傾向があることから、スイッチでネイティブ動作させるのは無理ではないか。強力なサーバー上でゲームを動かし、スイッチに画面を転送するクラウドゲーミング方式以外に選択肢はないと危ぶむ声もありました。

しかし、マイクロソフトは「CoDをスイッチでネイティブ動作させる自信がある」との公式文書を出しています

これは英CMA(競争市場局)の発表した調査結果に対して、マイクロソフトが回答したもの。その中では、CoDが基本プレイ無料の「Warzone」と買い切りタイトルの2つがあると確認。

まず「Warzone」については、ゲームエンジンが「2015年発売のXbox OneからXbox Series X」まで動くよう最適化され、PC版としては「2015年発売のGPUカード」も対応とのこと。つまり、2017年にスイッチが発売される前の古いハードでも問題ない、と示唆しています。

かたや買い切りタイトル(『Call of Duty: Modern Warfare 2』など)に関しては、アクティビジョンの開発チームは「ハードウェアの性能に合わせてゲームのパフォーマンスを最適化してきた長年の実績がある」とのこと。たとえば『Apex Legends』や『DOOM Eternal』、『Fortnite』や『Crysis 3』(これらは他社タイトルも含まれますが)等の移植に使われた「標準技術」を使い、スイッチで動かせると「確信」していると述べられています。

またアクティビジョン側は、こうした移植が(伏せ字)ヶ月程度で可能であると見積もっている、とも付け加えています。

こうしたマイクロソフトの回答は、CMAからの疑いに応えたもの。英規制当局が引用している資料の1つがアクティビジョンの内部文書であり、スイッチの技術的な限界が書かれているものでした。

技術的なネックの1つとされるのは、スイッチの使えるストレージ容量の少なさです。どれだけの容量が必要かは伏せ字とされているものの「現在ほとんどのCoDタイトルは、ゲーム専用機やPCで125-175GBが必要」とのこと。確かにXboxやPlayStationが大容量のSSD等を使えるのに対して、スイッチの内蔵ストレージは32GBで、追加ストレージはmicroSDに限られています。

また、大作シューティングゲームは「任天堂のゲーム機ではあまり動かない証拠がある」とも指摘。こちらはアクティビジョンではなく、その他のゲーム開発会社やパブリッシャーの証言に基づくようです。

そうした証言では、グラフィック重視のシューティングは「元々PlayStationやXboxをターゲットとしている場合が多い」ため、スイッチ移植にあたり「資金の投入やグラフィック品質の妥協、あるいはクラウドゲーミング技術の利用が必要になる」可能性があると述べています。

ほか、複数のパブリッシャーからの聞き取りを元に、XboxやPlayStation向けと同様のゲームをスイッチで開発することがいかに困難かが縷々と語られています。たとえば「スイッチでゲームを開発する際に技術的な問題が起こったが、同じゲームをXboxやPlayStationで開発する際には問題がなかった」「スイッチの限られたグラフィックとストレージが(中略)対戦型ゲームのパフォーマンスに影響を与える」といった具合です。

これほど積み上げられた「スイッチはXboxやPlayStationとは異質」との主張に対して、マイクロソフトはCoDシリーズをネイティブで動かせると「確信している」と答えている次第です。

しかし、マイクロソフトが挙げているスイッチ移植の数々は、他機種と比べてフレームレートが低い、視野角が狭いなどの差異があり、必ずしも成功とは言い難いところがあります。

ましてやグラフィックの密度、銃撃戦のリアルタイム性を追求したCoDの買い切りタイトルではさらにハードルが高くなると予想されます。が、マイクロソフトやアクティビジョンがスイッチ上での良好な動作を確信しているなら、その成果を楽しみに待ちたいところです。


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《Kiyoshi Tane》
Kiyoshi Tane

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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