Inter BEEとAdobe MAXに見る、映像業界の変遷とAIへの取り組み(小寺信良)

カルチャー Film / TV
小寺信良

小寺信良

ライター/コラムニスト

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18年間テレビ番組制作者を務めたのち、文筆家として独立。家電から放送機器まで執筆・評論活動を行なう傍ら、子供の教育と保護者活動の合理化・IT化に取り組む。一般社団法人「インターネットユーザー協会」代表理事。

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11月15日から17日まで、毎年恒例のInter BEE 2023が幕張メッセで開催された。映像関係の方は出向いた方も多かっただろう。ところがその中日である11月16日、今度は東京ビッグサイトにてAdobe MAXが開催された。

まあ1回の出張で両方見られたのは幸いだったが、なんでこう日程をぶつけるかな、と思ったものである。Adobe広報部長の鈴木正義さんに聞いてみたところ、Inter BEEと被ってると知らずに日程を決めてしまったようである。

まあそんなわけで両方の取材ができたわけだが、同じ映像系とはいっても方やハードウェアで技術寄り、かたやソフトウェアで制作寄りであり客層も全然違う。今回は両方のイベントから感じたことをまとめてみたい。


※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2023年11月20日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。



規模は小さく間口は広く、のInter BEE

イベントとしてのInter BEEは、2019年頃から規模が縮小されており、現在は4ホールを使うのみである。一応オーディオと映像は場所が分かれているが、映像エリアはゾーンがあるようでないような状態になっている。IPが入ってきたことでいろいろなものが繋がってしまうようになったため、ゾーニングができなくなっていると感じた。

▲オッサン大集合のInter BEE2023

会場内で大きな面積をとっていたのが「IPパビリオン」である。ここではIP製品を持つ各社が共同で、仮想中継箇所2つ、仮想放送局を2つ立ち上げ、すべてをIPで接続するというデモンストレーションを行なっていた。もちろん機材も1メーカーで統一することなく、バラバラである。

▲放送システム全体をシミュレーションしたIPパビリオン

正直放送局の伝送システムはコデラの範疇ではなく、よくわからないところも多かった。もちろんこれに興味があるというのは放送局勤務の技術者だけなので、来場者もそれほど多くはない。ただ、機材はバラバラでも中間にオーケストレーションできる仕組みがあれば機能するということを実証できたのは成果であろう。こんな機会でもなければ、なかなか「実際に組んでみる」という機会はそうそうあるものではない。

同様のシステムは、AWSの展示でも見られた。ここでは汎用インターネット回線、いわゆるWANを通してシステムを組んでいた。ストリーム量としては十分だが、テレビ放送局という公共インフラの責任を考えたときに、一般のネット回線を通してていいのか、という議論はあるだろう。

▲AWSでは独自に放送マスター設備をIPで実現

会場で偶然、とあるメディアコンサルタントの方に会った。以前、局のマスターがIPになるだろうか、という話をしたら、5年後ぐらいにはなるだろう、という意見だった。あと5年もすれば、SDIだ非圧縮だとこだわっていたオジサン層が定年退職するので、考え方が変わるだろうという。また地方局は本当にお金がないので、クラウド上で共同でマスターを運営することになるだろう、とも言われた。これは総務省が先導する考え方と同じである。

今回は放送のIP化と映像業界のDX化を中心に取材したので、ある程度取材範囲を絞ることができた。それでもかなり多くのメーカーがIPに乗り出しており、追い切れない部分も多い。

その一方で、カメラだレンズだマイクだ三脚だ証明だといったところは相変わらず盛況で、そこまで追っていたらあまりにも範囲が広すぎて取材しきれない。専門の人がそれぞれに収穫を得て帰れるのも、Inter BEEの良いところではある。

クリエイターパワーが炸裂するAdobe MAX

Adobe MAXは、午前中が基調講演、午後は有料セミナーとオープンスペースでの講演、夜はパーティ形式のユーザーミーティングという格好で、1日中やってるイベントである。プレス関係者は基調講演に出たあと、午後はプレス説明会が開催されたので、会場の方は30分ほど回っただけである。

▲若いクリエイターが大集合のAdobe MAX

基調講演では、今年発表された新機能やベータ版で公開中の機能を、デモンストレーションを交えて解説が行なわれた。来場者は皆クリエイターということで、若い。大半が20代から30代である。

▲Adobe MAX基調講演

基調講演のメモも、スマホで写真をとってそのままスマホでメモするという人達ばかり。ノートパソコンを広げようとしたオジサンは、そっと閉じてカバンにしまうのであった。

基調講演では、ラボで開発中のプロジェクトは紹介されなかったが、午後にAdobe Sneaksとして会場でも紹介されたようである。プレス向けには別途、説明会が開催された。

基調講演では紹介されなかった製品に、日本語フォント「貂明朝アンチック」がある。これはマンガのフキダシで使用される独自ルールに基づいて開発されたフォントで、かなは明朝体、漢字はゴシック体で構成されている。またマンガ独自の表現である「あ゛」といった文字も1文字として収録されるなど、業界を長期間かけてヒアリングした成果も見られる。

縦書き、横書きにも対応し、ウェイトも6段階あるということで、セリフからタイトルまで幅広く使えるように構成されている。普通の人が日常的に使う物ではないが、現在プロではない人達が投稿型サイトやSNSにマンガを投稿している。こうしたもののクオリティアップにも繋がるだろうし、そのまま雑誌掲載という流れも起きやすくなるかもしれない。

イベント会場は全体的に照明が落とされ、さしずめ「夜市」のような雰囲気である。キッチンカーも場内に設置され、お祭りのような雰囲気もある。会場はコマと通路で分けられているのではなく、いくつかの「島」に別れており、その間を自由に行き来できる。各島ではテーマ別に無料セッションが開催され、自分に関係するところを見るといった格好だ。

▲キッチンカーで腹ごしらえ

▲動画系セッションはお馴染み江夏由洋氏が登壇

Adobe以外にも協賛メーカーがブースを出しており、そこもなかなか食いつきが良かった。プリンタメーカーなどはもちろんだが、ストレージメーカーなども出展したら、Inter BEEよりは集客があるのではないだろうか。

全体的に見たことのない機材やツールを見に来るというより、知識やアイデア、テクニックを仕入れに行くという場所である。その点では、「話しに行く場所」なのかもしれない。

業界に共通する、AIの考え方

どちらにも共通する技術としては、AIがある。安全に商業利用できる生成AIとしてはAdobe Fireflyの注目度は高い。ただAdobe MAXを見た限りでは、画像全部を生成するというより、クリエイター間では生成塗りつぶしや、一括トーン変更といった編集ツール的な使い方のほうが多く受け入れられているように思える。

一方Inter BEEでは、主に画像解析系でAIの進化が見られる。例えば昨今はプライバシーの配慮も強く求められるようになり、街の雑感などを撮影しても、無関係の人の顔にボカシを入れることも多くなった。これまではたった数秒のカットのために10時間ぐらいかけてぼかしをかけていたわけだが、AIを使って顔認識し、そこにぼかしを加えるというツールが各所から登場している。

▲日本テレビが開発したボカシ用座標をAIで計算するAfter Effects用プラグイン

また文字起こし系は当然として、起こした文字からサマリーを作り、そのサマリーを元に動画を再編集するという、動画サマリー技術や、高解像度化する超解像の代わりにAIでピクセル補間する方法、通常撮影動画をスローにし、コマが飛んだところをAIが自動で埋める技術など、既存動画の加工・補正技術方向へ進みつつある。プロになるほど、生成系はあんまり関係ないといった雰囲気である。

▲AWSで開発中のAIによるピクセル補間で画質を上げる技術

どちらのイベントもそうだが、AIは人の手間を助ける物であり、人間のクリエイティブに変わるものではないという方向性がきちんと認識されている点は共感が持てる。生成AIで写真と変わらぬものが、という方向も面白いが、クリエイティブを理解しているプロンプトエンジニアはそれほど多くない。今後はそうした人材の育成が求められてくるだろう。

プロンプト入力だけで動画作品1本作ってしまうのも夢物語ではなくなってきているが、実際それを演算させるのにGPUがどれだけいるのかということを考えると、今のところまだマーケティングやマネタイズまでの流れができてこないと、実現は難しい。iPhoneで映画1本撮りましたというのとは、わけが違う。

とは言え、クリエイティブの方法論は、AIの登場で確実に変化している。願わくば、どうせAIなんでしょと中途半端な知識で買いたたかれるようなことがない未来が来て欲しい。

《小寺信良》

小寺信良

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