40年前にコンピュータの操作方法を確立したApple Lisa。記念イベントで開発者たちが語った秘話

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五島正浩

シリコンバレーのIT企業でエンジニアとして働きながら、最新のシリコンバレーの話題を紹介しています。

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40年前にコンピュータの操作方法を確立したApple Lisa。記念イベントで開発者たちが語った秘話
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AppleのLisaというコンピュータをご存知でしょうか? その名前を知らなくても、例えば皆さんがよく使っているであろうキーボードショートカット、Command(またはControl)+ Cでコピー、+ Xでカット、+ VでペーストはLisaが始まりです。

1983年1月19日にリリースされ、Appleファンの間で伝説となっているプロダクトです。スティーブ・ジョブズによって開発が始められ、当時最先端の技術であったウィンドウとマウスを使ったGUIシステムを実現しているのが特徴です。

今年は誕生40周年にあたることから、1月31日にシリコンバレーで記念イベントが開催されました。今回はこのイベントの様子をレポートしたいと思います。

▲40周年イベントで展示されていたApple Lisaの実機

会場になったのはマウンテンビューにあるComputer History Museumです。Google本社から程近い場所にあり、コンピュータがどのように進化してきたかを知ることができるようになっています。そろばんや計算機から始まり、今では貴重な歴代のコンピュータがずらりと展示されていて圧巻です。

もちろんApple II、初期のMacintosh、LisaなどAppleの往年の名機もありますし、さらにLisa、Macintosh、そしてMicrosoft WindowsのGUI開発に大きな影響を与えたXEROX PARCのAltoもあります。ここはLisaの40周年の誕生日を祝うのに最適な場所と言えるでしょう。

▲マウンテンビューにあるComputer History Museum

▲Computer History Museumに展示されているXEROXのAlto

最近はコンピュータのハードウェアだけでなく、ソフトウェアにも積極的に取り組んでいて、「The Art of Code」と称して歴史上重要なソフトウェアのソースコードを公開しています。昨年12月にはAdobeのページ記述言語PostScript、そして1月19日にはLisaのソースコードがダウンロード可能になりました。いわゆるオープンソースのソフトウェアのようにここから新しいものが生み出されるわけでないですが、ソフトウェアの歴史を知る貴重な資料となっていくことでしょう。

またコンピュータのハードウェアやソフトウェアなどの「プロダクト」だけでなく、それらを生み出した「人」にも注目して、多くのインタビュー動画をYouTubeに公開しています。ストーリーができあがった表面的なインタビューではなく、かなり深い部分まで踏み込んでいて、コンピュータの歴史を作ってきた人物のアーカイブとなっています。時にはその人の生い立ちにも触れたり、また3時間にも及ぶもまであります。

ここでLisaの40周年記念のイベントを開くということは、単にお祝いをするだけでなく、当時を知る人たちが集まって語ることで、それを歴史の一部として記録するという意味合いもあります。

ミートアップ的な小規模なイベントを想定していたのですが、当日会場に行ってみると数百人規模の参加者がいてびっくり。また数台のカメラも入り、ネットで本格的なライブ中継も行われていました。

はじめにLisaの発売当時のテレビCMが上映されると、会場から歓声がわきました。日本ではあまり知られていないようですが、若き日のケビン・コスナーが出演していてアメリカで話題になったそうです。

Lisaはビジネス向けを狙っていたこともあり、彼が早朝に出社し自分のデスクに置かれたLisaに向かって仕事を始めるというストーリーです。キーボードに触れるシーンは一切なく、マウスだけで操作しているところがLisaの特徴を表しています。まだマウスが知られていない時代なので、衝撃な製品だったことは間違いないでしょう。

その後は当時AppleのLisa開発に関わった人たちが当時の思い出を語りました。

Bruce Danielsは、伝説となっているXEROX PARCでのミーティングに参加する機会を得ました。帰ろうとするとスティーブ・ジョブズに一緒にAppleのオフィスに戻るように言われたそうです。断り切れず、自分の車をPARCの駐車場に残してスティーブ・ジョブズの車で帰り、後ほど取りに戻ったという逸話を披露していました。

車内ではスティーブと未来を変える可能性について議論することができ、2カ月後にソフトウェアチームのマネージャに任命されます。Lisaにバンドルした7つものアプリケーションを完成させたことを誇らしげに語る一方で、全てをバンドルしたことによって価格が高くなってしまったとも述べています。Lisaの発売時の価格は1万ドルでした。

ハードウェア開発チームのマネジャーだったWayne Rosingは、当時のLisa開発チームの赤いジャケットを着て登場し、マウスの開発の経緯を紹介していました。

元々のXEROXのマウスは3つのボタンが付いていて、2つボタンや1ボタンの案も出ていたが、どれを使うか決める必要がないことから、Lisaのマウスのボタンを1つにしたと説明。また、IBM PCがハードをオープン化してソフトウェアが入り込みやすくなっていたのに対して、Lisaは後れをとったと述べていました。

▲Lisaのソフトウェアとハードウェアについて語るBruce DanielsとWayne Rosing

続いてLisaのUIデザイナーであったAnnette Wagnerが登壇。Lisaのアイコンのデザインの仕事の話が初めて来た時にきにはアイコンが何であるか知らなかったとの話や、フォントの開発の苦労話を語りました。MacintoshのアイコンやフォントをデザインしたSusan Kareは有名ですが、Lisaはまだ担当していませんでした。

また当時チームでIBMを皮肉ったTシャツを作ったことがあったそうですが、この会場にそのTシャツを着ていた人がいて驚いたという話で会場を沸かせました。

▲LisaのアイコンとフォントをデザインしたAnnette Wagnerも登壇

Macintoshの初期の開発チームにおける重要人物で、HyperCardの開発者としても知られるBill Atkinsonは動画で登場しました。

大学でPhDを取ろうとしていた時にAppleでスティーブ・ジョブズと丸一日を過ごし、Appleに来れば多くの人の人生を変えられる、と説得され、2週間後にPhDプログラムを辞めシアトルからシリコンバレーに移った思い出話を語りました。

Lisaについては、コンピュータは全ての人が使えるようになるべきで、その理想のものだと述べています。

▲Bill Atkinsonは別の日に来て数時間に及ぶインタビューを収録していたらしい

そしてLisaのデモ動画です。ブートアップのところが始まり、ウィンドウやアイコンやメニューの動作などを紹介しました。40年が過ぎた今もまだこうして実際に動作するLisaがあるとはすごいですね。

ファイルを書類に例え、それをフォルダに格納していくというGUIは当たり前になって1日何時間も使っているのですが、Lisaができた当時からこの完成度で実装されていたのは驚きます。

▲LisaのデモでGUIが紹介された

One More Thingで登場したあの人

最後には「One More Thing」ということで、スティーブ・ジョブズの娘でLisaの名前の由来になったLisa Nicole Brennan-Jobsから「Happy Birsday Lisa!」とのメッセージが流れ、バースデーケーキも登場しバースデーパーティになりました。

▲Lisaの名前の由来となったLisaからもお祝いのメッセージが

あまりにも内容が濃過ぎてあっという間に時間が過ぎてしまいましたが、もう一つ驚いたことが。

Lisaの元開発チームの人で記念写真を撮るから壇上に来て欲しいとアナウンスされると、会場からなんと30人ほどの人が集まってきました。

Lisaの実機をみるのも滅多にないことですが、その開発メンバーを一堂に見ることもまずあり得ないことですよね。なんだかとんでもないイベントに来てしまったと感じがします。その他にも同じ時代にAppleで働いていた人も多くいたようですので、関係者の人たちにとっては同窓会だったのかもしれません。

▲壇上に集まったLisa開発チームのメンバー

Lisaのプロトタイプも展示

なおこのイベントが始まる前には、Computer History Museumの会員限定のレセプションがあり、そこにはLisaのプロトタイプが展示されていました。LisaチームでモトローラのMC68000のチップを使うよう説得していたRich Pageというエンジニアのものだと解説されています。なんと貴重な収蔵品でしょうか。なお、Rich Pageは後にNeXT Computerのハードウェアを設計した人物だそうです(NeXTに勤務していた永沢和義さんによる情報感謝です)。

このプロトタイプは1980年時点のもので、当時はスタンドアロンではなく、Apple IIに接続して使うものだったとの説明が書かれていました。

▲レセプションで展示されていたLisaのプロトタイプ

▲Lisaのプロトタイプの解説

Webサイトで見つけて、気軽にでかけたイベントでしたが、コンピュータの歴史やシリコンバレーの文化について興味を持つきっかけとなりました。改めてComputer History Museumは偉大だと思います。


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《五島正浩》

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