株式会社 UPHASH(代表取締役 今井翔太)は、MoguraVR NEWSにてインタビュー記事を掲載しました。

株式会社UPHASH 代表取締役 今井 翔太
近年、3Dスキャン技術の発達は目覚ましく、専門家でなくとも誰もが気軽に3Dスキャンをはじめられる状況が整いつつある。そんな中で、特に開発者から熱い注目を向けられている技術が「3D Gaussian Splatting(3DGS)」だ。
この技術を使うことで、現実の空間や物体を非常に高品質な状態で立体的にスキャンでき、さらにデータをバーチャル空間上にアップロードして、デジタルツインやメタバースにも活用できる。
しかし、現状ではまだまだマニアックな技術であり、どういった点が魅力なのかが分かりにくいのが難点。また、現状では本格的な3Dスキャン用機材を実装しようとすれば、非常に高額な機材が必要となるためハードルが高くなってしまっているのも事実だ。

そんな中、今年の9月、XGRIDS(エックスグリッド)社から新型3Dスキャナー「PortalCam」が登場。一台で3DGSを活用した3Dスキャンが可能であること、Basicの価格が税抜750,000円(1年間のソフトウェアライセンス料込み)からと、これまでの機材の中では比較的安価な点などから、大きな注目を集めている。
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https://www.moguravr.com/3d-gaussian-splatting-portalcam/
空間の“空気感”までそのまま保存する技術

――そもそも「3D Gaussian Splatting」とはどういったものなのでしょうか? それまでの3Dスキャン技術と大きく違う点はどういったところでしょうか?
今井:技術の話から入る専門的でとても難しい内容になってしまうのですが、わかりやすい言い方をすれば、「3D Gaussian Splatting」は空間の中にどのような色がどれほどの距離にあるのかといった立体的な記録を測る技術ですね。なので、スキャンしたい空間を丸ごと保存できるのが魅力と言えます。
従来、3Dスキャンの領域では立体で保存したい“モノ”のスキャン方法が注目されていました。モノの質感や光の反射具合といったものを、フォトグラメトリ(※複数のデジタル写真から、モノの3次元的な形を復元する技術)で保存し、3Dで再現するといった技術の方面ですね。
しかし、この技術では、モノの周辺に漂う空気中のチリや、ユラユラとした炎などはキャプチャができませんでした。「3D Gaussian Splatting」であれば、空間にあるものがどの角度からどう見えるのかまで保存できてしまうので、そこが強みだと思っています。
そして、他の技術で保存されたデータに比べて、データがとても軽量です。近似する技術として「NeRF(※写真からAIを活用して高精細な3Dモデルを生成する技術)」がありますが、現状ではレンダリング・表示といった処理が非常に重いという課題があります。それに比べると、Webサイトにデータをアップロードして、そのまま出来栄えを確認するといったことも簡単なのはメリットと言えるでしょう。

――この「3D Gaussian Splatting」を活用した3Dスキャンはどういったシーンやシチュエーションに適しているのでしょうか?
今井:この技術を活用した一般向けのカメラが登場してきたのは、本当に最近のことです。つまり、我々はこういうものが世に出回るようになった初めての時代にいるわけで、活用アイデアは、皆さんと一緒にこれから考えていきたいところではあります。もちろん、すでに活用できる領域は非常に広大であることは分かっています。つまり「3次元空間の記録」を必要とする分野、すべてが対象となるわけです。建築や不動産、ゲームに映画に至るまで、さまざまな領域で活用できると思っています。
ビジネス領域で一番身近な活用例としては、ハウジングの販売だと思います。ハウジング領域では、すでに360度の定点映像でサンプルを見せる活用が増えていますが、あの技術は定点から撮影した複数の写真を天球状に貼っていくような処理となっているため、実際の長さや大きさをリアルスケールで忠実に再現できません。しかし「3D Gaussian Splatting」技術を使えば、部屋の間取りや広さだけでなく、例えば「この部屋に入るソファの大きさはどれくらいか」や「ドアの高さは実際にどの程度か」といったことまで把握できます。
――ビジネス目的ではない一般ユーザーの場合は、どのような使い道があるでしょうか?
今井:最近になって「3D Gaussian Splatting」の機材の価格も落ち着いてきて、ようやく一般の方でも手が届きそうなものになってきたので、ライトな需要もより増えていくだろうと思います。例えば、“記録”ですね。引っ越し前の家屋や楽しかった旅行先の施設など、記録しておきたい施設を、そのまま空気感ごとグルっとコピーしてしまう。結婚先や子どもの誕生など、一生残しておきたい空間を保存できるのは面白い使い方だと思っています。その場でしばらく動かないでもらえるのであれば、その場にいる人もそのままコピーできます(笑)。
それから、高齢者の方の介護施設などでその方の思い出の場所を記録して本人に見せるといった使い方もありえますね。そういったことで、御本人が喜ばれるのはもちろん、懐かしい記憶に触れることが心身の健康に良い影響を与える可能性もあります。


――今井さんご自身は「3D Gaussian Splatting」のどのようなところに可能性を感じているのでしょうか?
今井:私自身の視点で話させていただくと「3D Gaussian Splatting」はAIとの相性がとても良いと思っています。私自身も3DGC業界に20年ほどおりますが、既存技術の点群やポリゴンには、データの重さやレイヤー情報の複雑さなど、処理するのには煩雑な問題がまだまだあります。
しかし「3D Gaussian Splatting」で簡単に空間をキャプチャーし、AIと組み合わせて新たな空間に変換したりといったアプローチは非常に手軽。最近では3D空間を出力するAIのプロンプトも登場しつつあるため、自分のつくりたい空間を思うように作るといったことは、より簡単になってきていると思います。
また「現場に行かずに済む」ということも今後大きな価値を持つでしょう。例えば、工事現場の点検のお仕事では、必ず定期的に職人の方が現場を訪ねて確認ポイントを目視で見て回る必要があります。しかし今後はドローンやロボットで現場を3Dスキャンして、現地の変化を遠方からでもチェックできるようにしておけば良い。
これは職人の方に限らず、研究者の方など現地に行く必要のある方全員の需要に答えるのではないかと思っています。自宅で現地の様子を手軽に確認できれば負担は大きく軽減しますし、昨今の日本の人口減少に伴う現場作業人員の確保の難しさを考えると、解決の糸口になるかもしれません。そういった意味でも「現場に行かずに済む」ような技術はとても大事になってくると思います。
――今井さんは過去にEPIC GAMESでフォートナイトやアンリアルエンジンの成長を見られてきた立場の方と認識していますが、現在はなぜ「3D Gaussian Splatting」に注目されているのでしょうか?
今井:そもそも私はEPIC GAMESでフォートナイト系の広報活動などでよく世間に顔を出すことがありましたが、実際のところマーケティングが専門ではなく、3DCGの技術者でして。なぜ広報的な活動をしていたかといえば、当時のEPIC GAMESの日本部署に人員があまりいなかったので、たまたま担当することになっていたんです(笑)。
私個人は、EPIC入社以前から3DCGの領域で「次にブレイクスルーを起こす技術」に、とても興味がありまして、当時はGPUの急速な成長もあって、UnrealEngineやUnityの時代が来るという予感がありました。なので、UnrealEngineを日本の主に映像業界で活用できるように広めていくことをミッションとしていました。実際、UnrealEngineの活用は4、5年もしないうちに広がりましたね。その後、フォートナイトが日本でも人気になったので、広報的な活動の役割に転じ、現在は独立したという次第です。
独立後に何をやろうかと考えていた際、やはり原点に戻って3DCGの領域で出来ることを広げられないだろうかと考えました。そこで技術関連の研究論文を色々読んで調べていたのですが、2023年に発表された「3D Gaussian Splatting」の論文が、とても未来感があってワクワクしたんですよね。「きっと次のブレイクスルーを起こす技術はこれだ!」と思い、事業の中心に据えました。これまでにも、リアルタイムレンダリング、UnrealEngine、ノードベースコンポジティングなど、さまざまな技術を見てきましたが、定期的に来る革命的な技術革新の波には毎回必ず乗りたいと思っているんですよ。それが今は「3D Gaussian Splatting」だろうと。
またEPIC退社後に、さまざまなメタバース関連会社から「(開発方法の)アドバイスがほしい」といった要望を受けて色々と調査してみたのですが、現在のメタバースの最も困難なポイントは「すべてポリゴンで作ることに莫大な予算がかかる」という点でした。数十億という単位であっても満足できるポリゴンベースのメタバースのプラットフォームを生み出すことは難しい。
しかし、3Dスキャンで記録したデータを出力し、それをメタバースとして活用すれば、誰でも気軽に安価で実現してしまうわけです。なので、今後のメタバースは3Dスキャンありきで考えるべきだと感じています。「3D Gaussian Splatting」はPLY形式で保存でき、UnrealEngine、Unity、Blender、どのエンジンにも出力できます。その汎用性も強みと言えるでしょう。
――たしかに最近になってVRChatやArrival Spaceなどのプラットフォームに「3D Gaussian Splatting」でスキャンしたワールドをアップロードするユーザーも増えつつあり、日本でも少しずつ風向きが変わってきている予感がします。
今井:メタバースの主にデジタルツイン的な方面での活用方法としては非常に有効だと思いますね。3Dスキャンデータをベースにして、AI処理やオブジェクトの追加でいかようにも付加価値をつけられますし、VRヘッドセットで体験できるようにすれば、没入感のあるワールドとして見せることもできます。
個人的な話ですが、私は高校の頃から「世界を全部創造し直したい!」という気持ちがあり、モデリングやアニメーションなどで自分だけの世界を作ることができる3DCGの世界がとても好きなんですよ。
そんな中で「地球全体をスキャンして、自由に創り変えられたら良いのに」という気持ちは常にあって、「3D Gaussian Splatting」はそんな自分の想いの革新を突くような技術だからこそ、今こうして興味を持っているのだと思います。
現状の最適解、手軽に使えるスキャナー「PortalCam」とは?

――今井さんが現在注目されている3Dスキャナーが、XGRIDSの「PortalCam」ですね。この機器がどういったものか紹介いただけますか?
今井:これまで自分の手だけで「3D Gaussian Splatting」で3Dスキャンを実行しようとすると、綺麗に撮るには非常に高額な機器をいくつも組み合わせて、何時間もかけて空間を隅から隅までしっかりと撮り切る必要がありました。これは金銭コスト的にも体力的にも非常に大変で「誰か気軽にスキャンできるハード機器を作ってほしい!」とずっと思っていました。
そこで、たどり着いたのがXGRIDSの3Dスキャン機器でした。実際に購入して触って「これは未来を作るデバイスだ」と感じまして。これまで、3Dスキャン機器自体は結構な数が出ていたのですが、「3D Gaussian Splatting」の生成クオリティが非常に高く、ソフトウェアとプラットフォームの開発にも力を入れているのが、探した限りXGRIDSのみだったのです。そこで早い段階で企業側にアプローチして、日本展開を担う形で、XGRIDSのエンドーサーを担当することになりました。
そんなXGRIDSから今年の9月に登場したのが「PortalCam」です。価格はBasicの1年版が税抜750,000円と、これまでの3Dスキャン機器と比べると比較的安価です。4台のカメラと小型ののLiDARスキャナを搭載しています。持っていただくと分かりますが、重さが1kgを下回っているので、片手で持てます。これまでの重厚なスキャン機器に慣れている方からすると、かなり楽になったことが分かると思います。
フロントにある200度魚眼カメラで周囲の色を取得し、LiDARスキャナで距離を計測できます。スマホと連動していて、アプリでスキャン機器を操作管理できます。計測はとても簡単で、このように片手で持ってグルっと回りながら計測していきます。
あらかじめ計測するためのルートは決めておいて、グルグル回りながら高低差を変えつつデータを取得していくかたちとなります。より詳細に取得したいポイントがある場合は、機器をじっくりと動かしながら取得していけば、看板の文字が読めるくらいには詳細に取得できます。スキャンの知識がなくても、この機器を使えば誰でも気軽にできてしまう点が大きな強みですね。
またスキャンしたデータを読み取って3D化する工程が、アプリで2ステップくらいでできてしまうのも魅力ですね。これまでの3Dスキャンというのは、ロケーションハンティングやセット構築に要する時間だけでも数週間の作業を要しましたが、その工程を一気に短縮できます。


――この「PortalCam」はどれくらいの広さの空間のスキャンに向いているのでしょうか?
今井:プロ用の機器のような大型の橋やダムを全体的にスキャンすると言ったことには向かないかもしれませんが、公園やオフィスの一室といった小ぶりな空間であれば、比較的簡単にできるかなと思います。
ちなみにAppleのiPhone Proシリーズをお持ちの方は搭載されているLiDARを使えば「3D Gaussian Splatting」も一応可能ではあるのですが、iPhoneのLiDAR自体の焦点距離が短いので、「PortalCam」でできる範囲のスキャンは難しいと思います。解像度も「PortalCam」のほうが圧倒的です。なので、「PortalCam」は入門機とプロ用機器のちょうど中間くらいの立ち位置のものだと思ってもらえれば良いかと思います。「3D Gaussian Splattingに興味はあるけど、手軽に使えるちょうどよい機材は無いか」と探している方は、ぜひ飛びついてもらって良いと思います。
――ここまで手軽に持ち運べる大きさであれば、旅行や出張先などでも簡単に使えそうですね。
今井:そうですね。仕事中に気になる物件や自動車などの商品を記録する目的で使ってもらっても良いですし、旅行中に観光スポットの撮影をするのも良いと思います。取得したデータは、インターネットシェア機能に対応していて、XGRIDS提供のビュアーを使えばWEBから閲覧も簡単にできます。もちろん、3D空間の向きや移動先を変えたりして、自分の見たいポイントに調整も可能です。
――「PortalCam」で3Dスキャンしたデータのメタバース領域での活用方法としては具体的にどのようなことが可能でしょうか?

スキャンしたデータをXGRIDS社が提供している開発キット「Lixel CyberColor(LCC)SDK」を使うことで、UnityやUnrealEngineなどに出力し、リアルな 3DGS モデルを統合したアプリケーションを開発したり、VRヘッドセットに直接コンテンツをストリーミングしたりもできます。自分が撮影してきた観光スポットの景色を思い出すためにVR上に空間を再現して臨場感のある状態で入場するといった使い道も可能です。
また「LCC for BIM」を使えば、モデル内に埋め込まれた高精度データを活用し、AIアルゴリズムによって自動モデリングも可能です。これにより、空間データを手作業で変換する作業時間を大幅に削減できます。「Version 1.9.1」からは、XGRIDSがスマートフロアプラン生成機能をLCC ソフトウェアに直接統合しており、ボタン1つで2D/3Dのフロアプランを自動生成できるようになりました。
――お話を聞いていると、今後この技術が普及していくことで、ますます活用のアイデアは広がっていきそうです。
今井:人間が3次元の空間に生きている以上、3Dが関わらない領域って実はあまり無いと思うんですよね。例えば、取得したデータを他の技術と組み合わせて映像やゲーム制作にも転用できますし、芸術品や歴史的建造物の3Dデータ保存といった目的でも利用できます。この「3D Gaussian Splatting」が普及していけば、どんどん楽になる領域があるし、アイデアも増えていくのだろうと。
これまで人類が文章から絵画、写真、映像といったかたちで様々な記録媒体を残していますが、いよいよ“空間”そのものを記録できるようになってきました。現在Meta社をはじめ、様々なテック企業が、ARやAIを活用したスマートグラスを発表しているなかで、より気軽に空間を見られるデバイスの進化は続くだろうと思います。そうなっていけば、アニメ『電脳コイル』で表現されたような世界はもう間もなく来ることになるだろうと。データも軽量化していき、技術が当たり前のものとして普及していく、AIを組み合わせればより多様な表現が生み出せる……そんな進化の過程を見ていると、未来は明るいんじゃないかと思わせてくれますね。
今後の展開
- PortalCamを活用した3DGS導入支援・教育プログラムの提供
- 各業界への実証導入(ショールーム・展示・観光・文化財保全など)
- 3Dデータ活用によるブラウザ体験最適化技術の研究
- Web3Dプラットフォーム「Reflct」などとの連携強化

株式会社UPHASH所在地:東京・九州
代表者:今井翔太
事業内容:
・3Dスキャン技術開発(LiDAR、フォトグラメ
トリー統合)
・4D Gaussian Splatting研究開発
・空間インフラ・デジタルツイン構築
・企業向け3D技術コンサルティング
・画像認識技術開発
公式サイト:https://www.uphash.net/
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