独マックス・プランク人間認知・脳科学研究所(MPI-CBS) の研究チームは、ヘヴィメタル音楽を聴くことで、慢性的な疼痛を抱える人の痛みへの耐性が増す可能性があるとする論文を、査読ジャーナルScientific Reportsに発表しました。
これまでの痛みに関するいくつかの研究では、慢性的な疼痛を抱える患者の痛みへの耐性は、怒りを抑え込んでいる際に増強されることが報告されています。また、音楽と痛みに関する研究では、好きな音楽を聴くことで体内にリラックス・鎮痛作用のある「オキシトシン」と呼ばれるホルモンの分泌が促され、その結果として痛みを緩和する可能性があるとされていました。
MPI-CBSの研究者は、それならば怒りや不愉快な感情やエネルギーを解放するような音楽を聴いた場合に、人の痛みへの感覚がどのように変化するかを調べたいと考えたとのことです。

研究者らは、ドイツで毎年開催される最大級のヘヴィメタル・フェスティバルである「ヴァッケン・オープンエアー」に参加したメタルファン122人を対象に、ヘヴィメタルを聴くことによる痛み耐性増強効果を調査しました。調査は、水温を約2度にまで下げた氷水を入れた容器を用意し、そこに肘の辺りまで浸して限界まで我慢する「冷水刺激タスク」によって行われました。
調査対象は、開演前に会場でテントを設営中だったメタルファン60人の協力を得て、そのグループを対照群としました。そして、4日間にわたるフェスティバルの3日目と4日目に、協力を申し出た会場のメタルファン62人を被験者に、同じ試験を実施しました。

試験で測定したのは、氷水に腕を浸してから、最初に痛みを感じるまでの時間(痛み感受性)と、そこから腕を引き抜くまでの時間(痛み耐性)、そして不快感の度合いという主観的評価の3つです。
実験の結果、メタルファンの痛み耐性を示す数値は、開演前のグループに比べて、ヘヴィメタルミュージックを爆音で数日間浴びたグループのほうが有意に増加していたとのことです。ただ、参加者の痛みの感じ方や不快感の度合いはフェスティバル前の対照群と変わりませんでした。
論文共著者のリディア・シュナイダー氏はこの結果について、ヘヴィメタル音楽を聴いたあとのグループのほうが「単純により長く(氷水の)痛みに耐えられた」と述べています。そして、これはヘヴィメタルを聴いて鎮痛効果が現れたというより、不快な感覚を受け入れる「レジリエンス(回復力)」が向上したと解釈できるとしました。
また意外にも、データからはフェスティバルという大きなイベントへの期待感(anticipatory joy)が高い参加者ほど痛みへの耐性が低い傾向がみられました。そのため、「気分が良い状態なら痛みにも強い」という説明は成り立たないともシュナイダー氏は説明しました。

研究の共著者で認知科学者のトム・フリッツ氏は「臨床現場では、音楽はしばしばポジティブな感情を引き起こし、リラックスを促すために用いられる。しかし、怒りを発散したいときには、必ずしもリラックスできる音楽を聴きたいとは限らない」「不快な感情状態や困難な状況を受け入れることは、回復力や痛みへの耐性において中心的な役割を果たしている。そのため、場合によっては不快な感情をポジティブな感情で覆い隠すよりも、怒りの音楽を聴く方が有益である可能性もある」とし、今回の研究結果が将来、実際の患者に大きな影響を与える可能性があると述べました
また、今回の研究結果が将来、実際の患者に大きな影響を与える可能性があると述べています。フリッツ氏は「これは慢性疼痛患者のグループにとって確かに重要なことだ」とも、研究に関する声明で述べています。
なお研究者たちは、今回の研究だけで「へヴイメタルを聴けばより長く痛みに耐えられるようになり、そこからの回復力も増すと断言はできない」としています。たとえば今回実験に協力したメタルファンたちは、その大半がドイツ人男性に偏っていました。また、一定量のアルコール摂取者は分析から除外したものの、飲酒の有無は自己申告によるものであり、申告忘れなどを後から確認してはいません。
「ヘヴィメタルという音楽は、不快な感情を無理やり前向きな姿勢で覆い隠すのではなく、困難な感情と直接向き合うもの」だと、フリッツ氏は述べています。そして、「フェスティバルの包摂的な社会的雰囲気と相まって、ヘヴィメタルを聴くことは内因性オキシトシンの放出を刺激し、自己効力感と痛みの受容を高める可能性がある」としました。
研究チームは、この研究だけでヘヴィメタルが身体的な痛みの緩和に何らかの特別な効果をもたらすと断言するには至らず、もっと多くの要因を研究する必要があるとしています。










