Anthropicが、AIモデル Claudeが生成する文章に電子透かしを導入する計画を明らかにしました。
電子透かしといえば、音声や画像の場合、人間には聞こえない・見えない微細なパターンを埋め込む技術がすでに使われています。
テキストの場合、文章全体の単語の選びかたの傾向を秘密鍵に基づきわずかに偏らせて目印とする技術が実用化されており、人間が目視で確認することは不可能。
コピペしたり順序を入れ替えたり、生成させた文章を見ながら手で打ち直しても残るため、今後は Claude に代筆させた文章かどうか、ある程度の確度で判定できることになります。
■ EU AI法で義務化、各社が署名済み
Anthropic がテキスト透かしを導入する直接の理由は、2026年8月2日に発効したEU AI Act(AI法)の第50条2項。生成AI事業者に対して、AI生成物には技術的に判定できるよう印をつけることを義務化する内容です。
これに対応する行動規範には、Anthropic、Google、OpenAI、Meta、Microsoft、Mistral、Cohereなど主要各社が署名済み。
Claudeの主要モデル、Fable 5やOpus 5、Sonnet 5等はこの法律の発効前にリリースされているため、現時点ではまだ透かしの埋め込み義務がないものの、猶予期間後には対応が必要になるため、Anthropicは透かしを付与すべく作業中としています。
■ テキスト透かしはGoogleが先行、単語選択に僅かな偏りを導入
AI生成文章への電子透かし付与としては、GoogleがGeminiで「SynthID-Text」技術を以前から導入しています。
SynthID-Textは、文章の単語を選択する際の確率をわずかに偏らせることで、意味は変えないまま統計的な偏りを作り出し、専用の検出器で読み取れるようにする技術。
この単語、この語順といったレベルではなく、自然な文章としてどちらでも違和感がないような微妙な差が多数、一定のパターンで含まれることで、統計処理するとSynthID-Textが使用されたかどうか分かる仕組みです。
この「偏り」はトークンの並びと秘密鍵に基づき単語ごとに計算されるため固定ではなく、たとえばGeminiの文章を何万字と集めて単語を集計しても分かりません。
Googleはこの技術をApple、NVIDIA、OpenAIなど他社にも開放し、業界共通の基盤とすべく働きかけています。
■ Claudeモデル段階で付与、Claude Code や Cowork も対象
Claudeについては、生成する文章にモデルの段階で電子透かしを組み込む方針。Anthropicによれば、見た目や読みやすさへの影響はなく、コピーして貼り付けても残り、ある程度の編集を経ても検出可能です。
実装はモデル単位のため、チャットのClaudeだけでなく、APIやClaude Code、Cowork、Claude Tagなど、どの経路で生成したテキストにも同様に適用されることになります。
一方、透かしの技術方式について詳細はまだ明かしておらず、肝心の検出手段についても今後公表予定となっています。
■ 誤判定もある確率的手法、翻訳や校正でも「AI文」?
今回更新したサポート文書の中で、Anthropicはこの透かし技術の限界についても説明しています。まず、この透かしはAI処理の痕跡を示す信号にはなるものの、決定的な証拠にはなりません。
たとえば校正や翻訳、要約の目的でClaudeを使った場合でも透かしが付与されうるため、透かしの有無だけで誰が書いた文章なのかは判定不能。
Claudeに丸投げで考えさせたいわゆるAI作文なのか、人間が大きく関与して清書や校正段階で一部のみClaudeの「筆跡」が加わったものかは分かりません。
また大幅に編集・言い換えされた文章や、統計的なパターンが検出できないほど短い文章では検出できないこともあるとしています。
翻訳については、透かしのシグナルがなければ人間がネイティブで書いている可能性が高く、検出されればAIを使った可能性が高いことの判定にはなるとしても、人間が書いた文章をClaudeに翻訳させたのか、筆者がClaudeなのかの判定はできません。
■ 「誰が考えたか」までは判定不能、運用側の責任も
AIの急速な普及と、低品質なAIに丸投げした中身の薄いコンテンツ、いわゆるAI slopの氾濫は、一部ではAI生成コンテンツ全般への忌避や、根拠なく「なんとなくAIっぽい」からAI生成に違いない、後ろめたいから隠しているのだろう、といった魔女狩り的な反応まで呼んできました。
一時期のLLMが多用していたem dash や、独特の言い回し、不自然に頻出する単語などは「いかにもAIっぽい喋り方」というミームにすらなりましたが、一方で「段落分けが理路整然としすぎている、箇条書きを使っているからAIの疑いが濃厚」「AIに訊いたらAI生成の可能性が高いと答えた!」など、笑い話にもならないAI人狼ゲームはまだ続いています。
Claudeが採用する方式はまだ分からないものの、SynthID-Textの場合、人間が書いた文章をAI由来と判定する確率は、元論文では1%程度。ごく短い文章では判定不能の割合が増えます。
現在、一般的なチャットAIに文章を投げて尋ねた場合は、いわゆる「AIっぽい文体」や言い回しを検出して推測するだけであまり信頼できませんが、SynthID-Textの検出器は特定の文体や単語とは無関係の数学的な処理であり、「言い回しがAIっぽい」よりは信頼できます。
ただしもともと統計的な処理なので、どこからAI文の可能性が高いと判定するかは閾値設定の話。長さでも変わり、決定的な証拠にはなりません。
また引用などで一部にSynthID-Text処理済みの文が含まれる場合、ほかの部分を人間が書いていたとしても、「AI文」と判定する確率は向上します。
EU AI Act はこうした「AI判定」にある程度の技術的な裏付けを与えるものではありますが、「誰が考えたのか」までは分からない以上、検出側・運用側が扱いを間違えるとまた別の問題が発生する懸念もあります。
特に「AIらしさ」を減点やアルゴリズム上の不利に結びつけ、かつユーザーにブラックボックスで運用するような場合は、AI企業自体がさんざんに宣伝してきたAIの利便性、言語の壁を超える力が逆効果になる場合や、人間が考えて清書や校正、翻訳をさせただけなのに中身まで「AI生成」と判定されて却下される懸念もあります。
How Claude marks AI-generated content | Claude Help Center
Google DeepMindの SynthID-Text 元論文はこちら。
Dathathri, S., See, A., Ghaisas, S. et al. Scalable watermarking for identifying large language model outputs. Nature 634, 818-823 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08025-4



