歌謡曲の巨匠サウンドをアルゴリズムで。ローカル生成するブラウザアプリをClaude Fable 5で作ってみた(CloseBox)

テクノロジー AI
松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

特集

これまで、ビートルズ(ポール・マッカートニー、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン)、ユーミン(荒井由実時代)の作風をアルゴリズムとして組み込んだブラウザアプリを作ってきましたが、次は歌謡曲にチャレンジしてみます。ターゲットは大好きな作曲家である筒美京平先生。果たしてどの程度できるのか?

使うのはこれまで同様にClaude Fable 5。7月20日まで延びたサブスク料金内優遇措置をできるだけ享受しようということで。

骨格はこれまでと同様。作曲家の手法を音楽理論的に分析し(AIが)、適切な確率をもってメロディーを生成する、ブラウザで動作するアプリ。歌詞は、生成されたフレーズのモーラから必要な語数を割り出し、それをプロンプトに出させます。

今回ターゲットにする筒美京平は、活躍年代が非常に長く、それぞれの年代で非常に幅のある作風を持ち、大ヒット曲がそれぞれの時代に山ほどあるわけで、そこで統一された「筒美京平風」というのを決められるのかどうか……。疑問を持ちつつも、ぜんぶをClaude Fable 5に丸投げしてみます。

■「筒美京平の手法」とは何か?

投げたプロンプトはシンプルです。「ビートルズ、ユーミンのジェネレーターに続いて、筒美京平歌謡曲ジェネレータを作りたい。同じように、作曲手法を列挙し、それらを実装してもらいたい」。

Claude Fable 5が返してきた「実装対象の手法」は10個ありました。

  1. イントロ・フック先行主義 (サビ提示型イントロ)

  2. サビ頭最高音・跳躍アタック

  3. 同音連打→跳躍 (「魅せられて」型)

  4. 洋楽リズム様式の翻訳輸入

  5. ペンタトニック寄りの旋律×洋楽的和声

  6. 王道進行・循環コードの職人的運用

  7. ベースのクリシェ・半音経過

  8. ストリングス/ブラスのオブリガート

  9. 大サビ転調

  10. 歌手適応型の音域設計

「ブルー・ライト・ヨコハマ」や「また逢う日まで」のイントロで曲を数秒で覚えさせるのは「歌謡曲をレコードで売る商品として設計した筒美の最大の発明のひとつ」であるとか、メロディは日本人が歌いやすい五音音階寄りに保ちつつ、下にはセカンダリードミナントやサブドミナントマイナーを敷く「二重構造」だとか、列挙の段階でかなり的を射たことを言ってきます。筒美京平論としてこのまま読める水準で、この時点で期待値が上がりました。


ブルー・ライト・ヨコハマ
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また逢う日まで
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冒頭で書いた「年代ごとに作風が違いすぎて統一できるのか」問題への回答は、「年代様式」を5つのプリセットに分けるというものでした。GSポップス歌謡 (1967-70)、R&B歌謡 (1971-74)、叙情フォーク歌謡 (1975-76)、ディスコ歌謡 (1977-79)、80sアイドル歌謡 (1980-85)。手法4の「洋楽リズム様式の輸入」を、時代ごとのリズム・BPM・ベース奏法・コード進行テンプレートのプリセット切り替えとして実装したわけです。なるほど、「統一された筒美京平風」を決めるのではなく、「洋楽を翻訳輸入し続けた人」という一段上の抽象で統一する。これは人間の評論でもよく言われることですが、それをそのままパラメータ設計に落とし込んできました。

■一発目から45回転のドーナツ盤が回る

で、出てきたアプリがこれです。

再生ボタンが45回転のドーナツ盤になっていて、再生中はちゃんと1.33秒/周、つまり45rpmで回転します。赤いレーベルには年代様式とキー、BPMが刻印されている。こういう頼んでいない気の利かせ方は相変わらずです。

生成される曲はイントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→大サビ転調→終止の構成で、コード譜には小節ごとの音数が表示されます。これが作詞用のモーラ・ガイドになっていて、ユーミン企画のときにやっていた「メロディの音数に合わせて歌詞のモーラを合わせる」ワークフローがそのまま使える。Sunoスタイルプロンプトも年代様式に連動して生成されます。

ただ、最初のバージョンは背景が濃い臙脂色で、黒いレコード盤が背景に沈んで見えづらい。指摘すると、シングル盤ジャケットの紙をイメージしたクリーム色のライトテーマに全面変更してきました。盤の外周に金のリムを足し、センターホールから背景の紙色が覗くという細かい芸当付きです。

■作詞ガイドは松本隆調と阿久悠調

このタイミングで、作詞ガイドを「一般形」「松本隆調」「阿久悠調」の3パターンから選べるようにしてもらいました。どちらも実際に筒美京平と組んだ作詞家です。

松本隆調は「感情を直接言わず、小道具と風景で語る (ハンカチ、ルージュ、駅のホーム、季節の色) 」「僕と君の距離が広がる、あるいは縮まる物語を、往復書簡や対話の構造で描く」。阿久悠調は「サビ頭の最高音に感情の核となる一語を置き、宣言・断言で歌い出す」「体言止めと命令形でタメと解放を作る」。木綿のハンカチーフと、また逢う日までを知っていれば頷ける要約が、モーラ数ガイドと一緒にコピーできるようになっています。

■動画書き出しには手法解説テロップまで付いてきた

MIDIに加えてWAVと動画の書き出しも追加。動画はメロディーラインのピアノロール表示と回転するビニール盤、そして作曲手法の解説付きという注文です。

出てきたのは1280×720のCanvasをMediaRecorderで実時間録画する方式で、左でレコード盤が回り、右をピアノロールが流れ、下部には「いま鳴っているセクションで使われている手法」のテロップが出ます。イントロでは「サビの旋律を器楽で先行提示し、数秒で曲を記憶させる筒美流の設計」、Aメロでは「ペンタトニック寄りの旋律x洋楽的和声(III7・IVm)/ベースは半音経過(クリシェ)で接着」、サビでは「サビ頭を曲中最高音でアタック/同音連打で溜めて跳躍で解放」など、オンにした手法だけがテロップに反映される仕掛けで、そのまま解説動画として成立します。

■「10の手法と言いつつトグルは6つ」問題

ここでふと気づきました。10の作曲手法と謳っているのに、オン・オフできるトグルは6つしかない。残りの4つはどうなっているのか。

問い詰めると、リズム様式の輸入は年代プリセットそのもの、ペンタトニック×洋楽和声はメロディ生成の重み付けに常時適用、王道進行は進行テンプレート、音域設計は年代ごとの音域として、「トグルではなく生成エンジン自体に常時組み込まれている」との回答。しかもUIに「常時適用の4手法( 筒美の『消せない体質』)」という表示欄を追加してきました。

さらに、常時適用だったペンタトニック具合はスライダー化してもらいました。100%側ならいかにも歌謡曲な節回し、0%側ならファとシが入る洋楽的な旋律。同じコード進行でスライダーだけ動かして聴き比べると、「歌謡曲っぽさ」の正体のかなりの部分が音階選択にあることが体感できます。

■歌手を選ぶとキーが決まる

手法10の「歌手適応型音域設計」もパラメータ化。南沙織型 (狭域13半音) 、太田裕美型 (語りの中音域) 、ジュディ・オング型 (ドラマティック広域) 、郷ひろみ型 (最狭域12半音) 、尾崎紀世彦型 (最広域19半音) の5タイプで、選ぶとキーまで自動選択されます。

ロジックは「サビ頭の最高音が、その歌手のベストの一音に着地するようにキーを逆算する」というもの。各歌手タイプに音域幅と最高音の実音を持たせ、生成される旋律の天井がその音に一致するキーを計算します。筒美京平が歌手ごとに音域を職人的に設計したという逸話の、アルゴリズム的な翻訳です。

そして太田裕美については、初期作品が全て筒美京平×松本隆コンビだったことを踏まえ、「アーティスト・プリセット」として一段上の層を追加。太田裕美をタップすると、叙情フォーク歌謡×太田裕美型音域×キーD×松本隆調作詞ガイドが一括で揃います。同じ構造で、また逢う日までの筒美×阿久悠=尾崎紀世彦プリセットも。史実の制作布陣がワンタップで再現される一方、「太田裕美プリセットの年代だけ80sアイドルに差し替える」といった史実にないif実験もできます。

実は筆者は太田裕美の楽曲が非常に好みで、高校の時に組んでいたバンドで「九月の雨」「青い傘」なんかをやったことがありました。九月の雨は、ABBAの「ダンシング・クイーン」のリズムをマイナーなメロディーに組み込んだ大傑作。イントロの劇的なピアノのイントロが良かった……。


九月の雨
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■そしてアーティファクトがブロックされる

ところが、ここまで育てたところで事件発生。アーティファクトを開くと「このコンテンツはブロックされました」。コードの構文は正常、外部URL参照もゼロなのに、配信側で何かに引っかかったようです。

こうなったら、と黄昏バラード・ジェネレータのときと同じ手に出ます。ローカルVite版への移植です。Claude Fable 5はエンジン部(engine.js)とUI部(App.jsx)にファイル分割した上でプロジェクト一式をzipにまとめ、手元のサンドボックスでvite buildが通ることまで検証して納品してきました。npm installして立ち上げれば、アーティファクトのCSP・サンドボックス制約とは無縁の環境で動きます。

Vite版ではCSP制約で使えなかったSalamanderグランドピアノ音源 (Tone.Sampler) も解禁。チェックボックスひとつでリードとコードが本物のピアノサンプルに差し替わり、WAV・動画書き出しにも反映されます。叙情フォーク×太田裕美プリセット×Salamanderピアノの組み合わせは、なかなかの「らしさ」です。

もうひとつ、Sunoの参照オーディオとして使うための調整も。8小節ごとのフレーズ末に入る弦のオブリガート (ちゃらら~という応答フレーズ) は、手法としては正しいものの、参照オーディオに歌メロ以外の旋律が混ざるとSunoが混乱する原因になるため、外してもらいました。生成物を「聴く作品」としてではなく「Sunoへの入力素材」として最適化するフェーズです。

■太田裕美の伴奏を、編曲者・萩田光雄に寄せる

とはいえ、こうしてSunoの素材として削っていく一方で、アプリ単体で鳴らして気持ちいい方向にも育てたくなります。そこで今度は、伴奏そのものに手を入れました。目をつけたのは編曲者です。

木綿のハンカチーフの、あの転がるようなアコースティックギターと温かいストリングス。作曲=筒美京平、作詞=松本隆の陰に隠れがちですが、あのサウンドは編曲者・萩田光雄の仕事です。そこで「太田裕美プリセットの伴奏を、萩田光雄のアレンジ手法に準拠させて」と注文しました。

返ってきたのは、それまでブロック和音で鳴らしていた伴奏を、木綿のハンカチーフ特有の“ギャロップ”する分散和音——フィンガーピッキング風に転がるアルペジオ——に差し替え、Bメロとサビには温かい持続ストリングスのベッドを敷き、フレーズ末には歌に応える対旋律を置く、というもの。さきほどSuno用に外した安っぽい「ちゃらら~」とは別物の、ちゃんと編曲の文法に沿った対旋律です。プリセットの説明書きにも、しれっと「編曲・萩田光雄」の名前が足されていました。

本物のサウンドと比較すると貧弱なものですが、最終的にSunoの参照音源とする程度には良くなったと思います。

■「歌い出しがいつも同じ」問題

次に気になったのは、どのフレーズも判で押したように小節アタマから歌い出すことでした。指摘すると、弱起・タメ・突っ込み・シンコペーションを含む十数種類の“歌い出しパターン”を用意し、フレーズの頭ごとに選び分けるようにしてきました。

ところが、まだ物足りない。今度は「出だしの音高がいつも同じ」。犯人は手法2の「サビ頭最高音」でした。サビの第一音を必ず音域の天井ちょうどに置く実装になっていて、しかもイントロがそのサビを引用する。だから何度作り直しても、曲の第一音が寸分違わず同じ高さで鳴っていたのです。手法として正しいことが、そのまま単調さの原因になっていたわけです。高音域のコード内音と音階音の中から、上の音ほど高い確率で少し散らすようにして、ようやく出だしが毎回変わるようになりました。

■50曲つくって、いちばん良い1曲を選ばせる

そして、ユーミンジェネレータの時と同様に、スコアリングを採用しました。「良い旋律・良いコード進行かどうかを評価する関数を作り、50曲生成してベストを提示して」。作曲だけでなく、批評までアルゴリズム化してもらおう、という発想です。

出てきた評価関数は、音域の使い方、順次進行と跳躍のバランス、跳躍したあと逆方向へ順次で着地して解決するか、歌い出しの多様性、音価と拍位置のばらけ具合、強拍がコード内音に乗る和声整合、そしてクライマックス(最高音)がサビにあって突出しているか——を加点し、オクターブを超える極端な跳躍・同音連打の乱発・狭すぎる音域・ガタついた旋律を減点する、というもの。満点86点で、50曲を生成して最高得点の1曲だけを画面に出します。

「本当に採点して選んでいるのか?」という当然の疑問には、UIで答えを見せてきました。採用曲の得点、50曲の最低・中央・最高がひと目でわかる分布バー、項目ごとの内訳バー。中央値60点そこそこの山から、67点の1曲をつまみ上げている様子が可視化されます。

「作り手」だけでなく「選び手」まで、同じAIに兼任させる。作曲家の手法をパラメータ化するのはこれまで通りですが、そこに「何を良しとするか」という評価軸まで持ち込めるとなると、これはもう一種の“耳”を実装していることになります。存外、生成AIにいちばん向いている仕事なのかもしれません。

■で、筒美京平になったのか?

生成したWAVを参照オーディオに、モーラ・ガイドに合わせて書いた歌詞と年代様式連動のスタイルプロンプトをSunoに投入します。

1977-79のディスコ歌謡をうたう曲ができました。Sunoで仕上げたら、当時あってもヒットしてそうな感じの曲に。シンセドラムとかギターとかもいい感じ。そういえば、「セクシー・バス・ストップ」という筒美京平の覆面プロジェクトがありました。スリー・ディグリーズの「にがい涙」も筒美京平作曲でしたね。


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個人的にはかなり満足のいくものができた気がします。

少なくとも言えるのは、「筒美京平風」を一枚岩のスタイルとして再現するのではなく、洋楽の翻訳輸入という方法論・消せない体質としての音階と音域設計・時代ごとの意匠という3層に分解して実装するというアプローチを、AIが自力で組み立ててきたことです。ビートルズやユーミンのときは「その人の癖」をパラメータ化する作業でしたが、筒美京平の場合は「職業作曲家のシステム」をパラメータ化する作業になった。ターゲットが変わると、出てくるアーキテクチャも変わるわけです。

次は誰にしましょうか。

《松尾公也》

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松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

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