岩田聡・元任天堂社長の肉声インタビューが約20年を経て初公開。山内溥氏の2画面へのこだわりにも言及

ゲーム Nintendo
Kiyoshi Tane

Kiyoshi Tane

フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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Image:CARSLOCK/YouTube

故・岩田聡氏といえば、任天堂の元社長としてニンテンドーDSとWiiという2大ヒットゲーム機の誕生を主導し、ひいてはNintendo Switchが成功する基礎を築いた人物です。

こうしたゲーム機について岩田氏は数々のインタビューで語ってきましたが、その肉声を含めた未発表の発言をゲームジャーナリストのスティーブン・トティロ氏が公開しました。

この発言はもともと、トティロ氏がNew York Times記事を書くために行ったインタビューで得られたものです。岩田氏に直接!約50分も取材しながら、NYTの記事ではたった2箇所でしか引用しておらず、インタビューの大半は日の目をみていなかったわけです。

そしてNYT記事の掲載から20年後、トティロ氏は自らのニュースレター「Game File」用に数本の短い音声ファイルと英文の書き起こしを掲載しました。なお、岩田氏は日本語で発言し、それを通訳が英語でトティロ氏に取り次いでいます。

インタビューの日時は2004年のE3開催(5月12日~14日)に近い時期。当時のE3には任天堂がニンテンドーDSを、ソニーがPSPを出展し、両社が携帯ゲーム市場で激突することに大きな注目が集まっていました。実際に両ゲーム機が発売されるのは同年12月になります。

まず岩田氏は、任天堂こそがプラスキー(十字キー)やA、Bボタンといった業界標準の一部を確立したと強調。そうしたスタンダードの上に築かれたゲームについて「年々豪華になり複雑になってきたんですけど、そろそろ限界を感じている」「エンターテイメントというものは、どんな素晴らしいものを作っても人は必ず飽きてしまう」と語っています。

ゲームが豪華になる方向性のひとつは、グラフィック能力が向上すること。ニンテンドーDSは、その方向を目指しているのではないと示唆しています。

さらに岩田氏は「過去には毎年のように処理能力を高め、より良いグラフィックを提供することで人々のニーズに応えることができたとしても、そうした成功の方程式は将来的に終わりを迎えることになります」「すでに貴方はDSをご覧になっていますから、入力デバイスがまったく新しくなっていることにお気づきでしょう。それにグラフィックも、今世の中にあるものと比べて劣っているとは思いません」と発言(この部分は音声が公開されず、英語の通訳を介したもの)。

ここから窺えることは、ゲーム機としては革新的だったタッチスクリーンに重きを置きつつ、やはりPSPとのグラフィック性能差も意識していた、ということでしょう。

ほか注目すべきは、山内溥元社長や、マリオの生みの親こと宮本茂氏がDS誕生に貢献したことを語っているくだりです。

もともとDSは、ゲームボーイアドバンスSPをローンチした後、ハードウェア開発チームが次はどんなモノを作ろうかと基礎研究していたことが始まり。その話が出てきたとき、「2画面にするぐらい大きな違いが必要だというアイディアが山内から出てきました」とのことです。

かたや宮本茂氏の果たした役割は、主にタッチパネル。岩田氏は「タッチパネルは色んな議論があったのは事実ですが、タッチパネルを搭載することに宮本が果たした貢献は極めて大きいと思います」と語っています。

これらは特に目新しい発言でも、今回初めて突き止められた新事実でもなく、任天堂の「社長が訊く」シリーズや「ほぼ日刊イトイ新聞」で当事者達が自ら語ってきたことです。

とはいえ、岩田氏がDSがまだPSPに対して劣勢だと思われていた頃に、自ら2画面やタッチパネルについて語っていた声を聴けるのは大きな感慨があります。少なくとも「この岩田氏の肉声」が初出であることは事実であり、岩田ファンであれば一聴をお勧めします。

《Kiyoshi Tane》

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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