デ・ニーロ、受賞スピーチを検閲されたとアップル非難。壇上で気付き「消された部分」を読み上げ喝采受ける

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Munenori Taniguchi

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The Gotham Film & Media Institute

映画俳優のロバート・デ・ニーロ氏が、2023年度のゴッサム・インディペンデント映画賞の授賞式におけるスピーチに登壇した際、読み上げるスピーチ原稿から当初予定していた記述が削除されていたことに関して、アップルと映画賞主催者を非難しました。

問題のスピーチはゴッサム賞のなかの一部門を受賞した作品を紹介するため、デ・ニーロ氏が用意したものでした。

事前の原稿は冒頭部分で「前大統領は在任中の4年間に3万回以上も嘘をつき、現在の報復キャンペーンでもそのペースを維持しています。しかし、その嘘の数々をもってしても、その本心を隠すことはできません。弱者を叩き、自然の恵みを破壊し、例えば『ポカホンタス』を差別的な言葉として使うなどして、他者を尊重しない態度を示しています」と、ドナルド・トランプ氏を非難する内容が含まれていたにもかかわらず、スピーチ本番でテレプロンプターの画面に表示された文章からは、そこがまるまる削除されていたということです。

デ・ニーロ氏は、原稿と違う内容が表示されたことに壇上で気づき、自らのスマートフォンに保存していたもとのスピーチ原稿を見ながら、削除された部分を改めて読み上げました。

スピーチの最後では「~アップルに感謝して…だのなんだのというつもりだったが、彼らが(今日)してくれたことには感謝などする気はありません。まったく、なぜ彼らはこんなことをしたのだろう」と述べています。

どうやら、原稿を改ざんしたのが、デ・ニーロ氏が出演した『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の共同出資者でパラマウントとともに配給も行っているアップルと、ゴッサム賞主催者の意向だと感じ取っていたようです。

この件に関して、エンタメ情報サイトVarietyは映画の関係者から得た話として、問題の原稿が本番のおよそ10分前に差し替えられ、それを指示した女性がアップルの社員を自称していたと伝えました。

またテレプロンプターを用意している会社には、トランプ氏に言及する部分が省略されたスピーチ原稿が、アップルの従業員2人からメール送信されていたものの、スピーチをする本人は原稿を差し替えたことに気づいていなかったとしています。なお、Varietyはゴッサム賞の主催者はこの件に関わっていないと伝えています。

一方『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の関係者は、原稿を検閲したのではとの疑いを否定、この件は誤解によるものだったと述べています。

関係者によると、デ・ニーロ氏のスピーチにはもともと複数のバージョンがあり、映画製作者からは映画の芸術性にのみ焦点を当てたいとの要望があったとのこと。そしてアップルおよび映画製作者は、デ・ニーロが(削除バージョンである)最終草案に同意していないことを知らなかったと、関係者は述べています。

結果的に、デ・ニーロ氏は本来の原稿をスマートフォンに入れていたおかげで、望みどおりのスピーチに軌道修正することができました。しかし、この一件でアップルに対する信頼は後退してしまったかもしれません。

アップルと言えば先月、Apple TV+で配信されていたジョン・スチュワートの政治トーク番組『The Problem With Jon Stewart』が、AIと中国に関する話題の取り上げ方がアップルの意向に沿わず、打ち切りになったと報じられたばかり。

一方、ロバート・デ・ニーロ氏はこれまでもトランプ氏を非難する発言を繰り返してきたことが知られており、先月にもニューヨーク市で行われた「Stop Trump Summit」に寄せたビデオメッセージで、前大統領を「道徳も倫理も持たない強がりなだけの」人物だと述べていました。

今回の受賞スピーチについても、個人の主義主張のために作品と無関係な政治的発言を差し挟んだわけではなく、みずから出演して受賞した作品『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が、実際に起きたネイティブ・アメリカン連続怪死事件を題材にしていることに触れた文脈です。

監督はじめスタッフは歴史的事実に誠実に向き合って作品づくりをしているのに対して、現代社会ではPost Truthの時代と呼ばれるように歴史修正主義が蔓延している、たとえばフロリダでは過去の奴隷制度について「技能を身につけられた奴隷自身が利益を得た」と若年の生徒に教える動きがあるように、事実さえ陰謀論に基づくオルタナティブ・ファクトに置き換えられてしまい、政治家も組織的な嘘を武器にしている、と対比させる流れの発言でした。


《Munenori Taniguchi》
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