高さ500m・全長170kmのメガストラクチャー「The Line」デザイン展示がジェッダで開催。サウジ皇太子が推進

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Munenori Taniguchi

Munenori Taniguchi

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サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が設立した巨大スマート都市開発会社NEOMが、住民900万人が居住できるという、高さ500m、幅200m、長さ170kmというメガストラクチャー、The Lineのデザインを、紅海沿岸の近年はF1レース開催で知られる街ジェッダでのイベントで8月14日まで展示公開しています。

その想像図を見ればわかるように、The Lineはガラスでできた巨大な壁が延々と続く異様な建築物。サルマン皇太子いわく「伝統的な、平らで水平な都市に挑戦し、自然保護と人間の居住性の向上のため、都市生活で人類が直面している課題に取り組む」という構想を具現化するものなのだとか。わかりやすくいえば、土地を広く使い自然環境の破壊も著しい従来の都市開発のあり方を改め、みんなでひとつの長屋に住もう的なコンセプトです。

建設は170kmもの長さの建造物をすべて一度に作るわけではなく、モジュール単位で開発していく形式を採用しており、NEOMは2030年までに150万人が住めるようにすると述べています。

長屋と言っても、The Lineはその巨大さを生かし、内部に居住施設だけでなくショッピングモールやレジャー施設、学校、公園といった、豊かな生活のための施設やインフラを整備するとのこと。それだけでなく、最終的に170kmにもなるThe Lineは、端から端まで素早く移動することを可能にする交通システムも内部に構築され、それらがすべて再生可能なエネルギー源で稼働すると説明されています。

注目なのはその内部の風景。完成イメージ図ではまるでSF・サイバーパンク・ファンタジー映画の世界。それはまるで映画『フィフスエレメント』に出てくるような街並みだったり、『天空の城ラピュタ』の宮殿風だったり、人気の”猫ゲー”こと『Stray』の、人々がいなくなる前のような世界観の風景が描かれています

ただ、これほどの規模の建造物なら、建設するだけで相当な期間と費用がかかり、建設作業に伴うCO2排出も途轍もないものになりそう。また、イスラエルのニュースサイトHaarertzは、建築史に詳しいMITの専門家Eliyahu Keller氏の意見として「彼らは自分たちの提案するものがどれほど問題かを理解しているとは思えない。プロジェクトの核心にある重要で深刻な問題を無視しているように思う」「なぜこんな砂漠にこの居住施設を作らなければならないのか、そこにどんなコミュニティがあるべきかと言った説明や問題提起もない」などといったなかなか厳しい指摘を伝えています

またWall Street Journalは、NEOMから続々と外国人幹部を含むスタッフが離れていると6月に報じていました。その原因は皇太子の非現実的な要求の数々と繰り返される気まぐれな方針転換について行けなくなるため。ほかにもNEOMのナドミ・アル・ナスルCEOらによる反対派への弾圧や強権的な態度も一因とされています。

しかし、専門家や報道が実現可能性や抱える問題を指摘しても、世間はこの常識外れのプロジェクトに注目をしているようです。YouTubeに公開されたThe Lineの動画は1週間ほどで約140 万回以上再生されています。

ちなみに、まったくオリジナルな発想で生まれたのかとも思われるThe Lineですが、1965年には米国で建築家Michael Gravesとピーター・アイゼンマンがデザインしたThe Linear Cityと呼ばれるThe Lineに非常によく似た構想がありました。これは35kmの長さを持つ2つの建物で構成されるメガストラクチャーで、片方の建物は居住、オフィス、店舗向けで、もうひとつは工場などの産業を収容するとされていました。

《Munenori Taniguchi》
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