このところ、漫画制作を支援するツールが次々と公開され、Xなどで大きな話題になっています。開発ラッシュと言っても良いくらいです。
この漫画ツールブームのきっかけの一つと言ってもよいソフトが、++++(シャープ)さんが公開した「どこでもロケハン」です。
地名や座標を入力するだけで、実在する街並みを3Dで再現し、漫画の背景として利用できるというすぐれもの。ブラウザ上で動作し、無料で使えます。
▲「どこでもロケハン」を紹介したX投稿
漫画を描く際、背景のために渋谷を再現するなど、実際の場所を調べなければならないことはよくあります。でも、それが海外だったりすると、簡単にその場所に行けるとは限りません。また、上から見た構図などでは、そもそもロケハンに行っても撮影できないことが多いでしょう。それをブラウザ上でカメラを動かしながら自由に試せるのが、「どこでもロケハン」なのです。
実際に私の住む宮城県塩竈市の市役所付近を出力してみました。塩竈市役所は裏に小さい山があるのですが、それもわかる形で出ていますね。

実は、++++(シャープ)さんはそれ以前から「コマ割りジェネレーター」などの漫画制作支援ツールをおやすみゲーム開発部で公開されていました。そこに「どこでもロケハン」が登場したことで、漫画制作支援ツールへの注目が一気に高まったと私は見ています。
この取材のインタビュー終了後にもガンガン精力的に漫画製作支援ツールを新しく公開しているんですよ。
この「どこでもロケハン」に影響されてか、漫画制作ツールの開発が活発になっていきました。++++(シャープ)さん自身が「戦国時代」と表現するほどの盛り上がり!
そのような公開ラッシュに、本連載のテーマであるVibe Codingは大きく貢献しています。これはぜひ開発の裏側を聞いてみたいところです。そこで今回、++++(シャープ)さんにお話を伺いました。
プログラミングで挫折した経験も
小泉: まず、今回の一連のアプリを作るまでのプログラミング経験を教えてください。
++++(シャープ): プログラミング経験は、ほとんどないです。ノードベースのツール内で使えるものを開発したことはありますが、ノードをつなげただけなので……。
昔、プログラミング言語を勉強しようとしたことはあります。HTMLで動くものを見本どおりに作ったこともありますが、バグを見つけるのに結構手間取って、挫折してしまいました。
小泉: それが今は、こんなにたくさんのツールにつながっているのですね。もともと公開するために作り始めたのでしょうか。
++++(シャープ): 元々、公開する予定はありませんでした。小説のコミカライズを考えていて、漫画を作るにあたって、苦手な作業や大変な作業を簡単にするつもりで、自分用に作ったものです。
小泉: つまり、「自分に必要なものを作っていったら、こういうツールを複数作ることになった」という理解で合っていますか。
++++(シャープ): はい、合っています。コマ割りジェネレーターを試しに公開してみたら反響がよかったので、いろいろなツールを追加で公開してみています。
AIで作れても、思いどおりの見た目にはならない
小泉: 開発に使っているAIや、契約しているプランも教えていただけますか。
++++(シャープ): ClaudeのMax、20倍のプランです。計算資源は毎週ほぼ使い切っている感じです。漫画のツールにはClaudeしか使っていません。
ちなみに、AIを使っているのはツールを開発する作業の方で、ツール自体には画像生成AIを使っていません。背景やコマ割りは、乱数や計算によって作っています。
小泉: 実際に作る中で、特に苦労したのはどんなところでしょうか。
++++(シャープ): 見た目が全然よくならなかったときに、どう直せばいいかで苦労しました。集めたリファレンスと見比べて、劣っている部分を直していった感じでした。
イメージしていた絵と、実際に出来上がった絵のクオリティーに差を感じた際に、原因を考えて直してもらうということを繰り返しました。
開発途中の「どこでもロケハン」を見る
開発途中の「どこでもロケハン」の画像も見せていただきました。
小泉: 開発途中の段階では、現在のものとはかなり印象が違います。
++++(シャープ): 最初は木の表現が原因ではないかと考えて、木を細かく作り直してもらいました。ただ、それだけではあまり改善しませんでした。最終的には、ベタを追加したり、トーンの濃度を調整したりすることで、漫画らしい見た目に近づけていきました。

▲開発途中の「どこでもロケハン」の画像
小泉: 漫画らしい見た目に近づけるために、AIにはどんな指示を出したか教えてもらっても良いですか?
++++(シャープ): レンダリングしてできた画像が、漫画と比べると明度差が弱いと感じたので、コントラストを上げるように指示を出しました。閾値で真っ黒にする機能などを追加してもらっています。
GoogleマップではなくOpenStreetMapを利用
「どこでもロケハン」の公開後には、実在する街を再現できることから、Googleマップのデータを利用しているのではないかと受け取った人もいたようです。また、作成した背景を漫画などに利用する際、地図データの利用規約は大丈夫なのかという声もありました。
実際には「どこでもロケハン」はGoogleマップのデータを使っていないんですね。利用しているのは、世界中の人たちが協力して作っているオープンな地図データ「OpenStreetMap」です。
OpenStreetMapは「ODbL」というライセンスで公開されており、条件を守れば商用・非商用を問わず利用できます。
ただし、利用にあたっては出典の表示が必要です。例えば、漫画の背景として使用する場合には、絵の近くや作品の奥付などに「© OpenStreetMap contributors」といったクレジットを記載し、ライセンス情報も案内します。
また、「どこでもロケハン」では、使用するデータに応じて「© OpenMapTiles」などのクレジットが必要になる場合もあります。
具体的なクレジットの記載方法や利用条件については、「どこでもロケハン」の説明ページを確認してください。
「ワールドガチャ」で架空の街を作る
実は、この地図データのクレジット表記をめぐる反応が、次のツールの開発につながりました。
小泉: 新しいツールもすごくよいですね。架空の地図から背景を作るツールは、実在の場所に限らない背景にも需要がありそうです。
シャープ: クレジット表記についてのご質問や、OSMデータの使い方についてのご意見をたくさんいただいたので、地図データを使わずに背景を作れるツールにしてみました。
こうして登場したのが「ワールドガチャ」です。
▲ワールドガチャの紹介投稿と作成された街並みのスクリーンショット
こちらは実在の街ではなく、架空の地図から街並みを作るツールです。
城下町や坂の町、ビル街、滝の上の水の都など、さまざまなタイプの街を生成できます。カメラの位置を変えながら、漫画の背景に使う構図を考えることもできます。
しかも、こちらは既存の地図データは全く利用していないため、クレジット表記は一切不要です。
利用者から寄せられた反応を受けて、また新しいツールを作ってしまう。これも、AIを活用した開発ならではのスピード感ですね。
漫画制作を助ける多彩なツールたち
そのほかのシャープさんが「おやすみゲーム開発部」で公開しているツールをいくつか紹介しましょう。
基本的にブラウザで動作し、無料・登録不要で試すことができます。
まず「コマ割りジェネレーター」は、漫画のコマ割り案をまとめて作れるツールです。気に入ったコマ割りをもとに別のパターンを作る「変異モード」も用意されています。変異度を上げるとかなり独特なコマ割りになります。


▲コマ割りジェネレーターのスクリーンショット
「ネームガチャ」は、コマの中に人物のアタリを配置して構図を検討できるツールです。自分のキャラクターの3Dモデルを読み込むこともできます。人物の身長を設定できるので女の子の身長を190cmにしてみました。

▲ネームガチャのスクリーンショット
「コミカライザー」では、文章で書いたプロットからコマ割りや演出を組み立てることができます。こちらも人物の身長を設定できるので女の子を190cmにしてみました。

▲コミカライザーのスクリーンショット
背景制作では、部屋の3Dモデルを作る「背景ガチャ」や、3Dモデルを編集できる「コミックモデラー」、人物のポーズを作る「ポーズガチャ」、フキダシを作る「フキダシジェネレーター」、集中線やトーンを作る「効果線・トーンジェネレーター」なども公開されています。そして先ほども触れましたが、このインタビュー後にもガンガン新しいツールが公開されています!
コマ割りから人物の配置、背景、仕上げの効果まで、漫画制作のさまざまな工程を支援するツールがそろっていますね。
一番苦戦したのは擬音ジェネレーター
「ワールドガチャ」に続いて、新しく公開された「擬音ジェネレーター」について。その名の通り、擬音を漫画の描き文字として作成できるジェネレーターです。多言語対応しているのでハングルも可能!

▲擬音ジェネレーターのスクリーンショット
小泉: 新しく公開された擬音ジェネレーターについても、開発の経緯や苦労したところを教えていただけますか。
++++(シャープ): 擬音ジェネレーターは、10月5日に公開したフキダシ版と一緒に開発を始めたものなのですが、公開まで2週間近くかかっていて、一番苦戦したツールでした。
文字にいろいろな編集を加えてみるのですが、漫画っぽいルックにならなくて困りました。いろいろな手法を試行錯誤しながら、うまくいったアイデアを採用して、今の形に落ち着きました。
文字主体のツールなので、多言語対応も難しかったです。
海外からの声でアラビア語にも対応
小泉: 擬音ジェネレーターでアラビア語に対応してくれてありがとう、という意見もありますね。素晴らしいです! アラビア語は右から左に読む言語で、文字のつながり方も日本語とは異なりますが、そうした部分にも対応しているのでしょうか?
シャープ: そうですね、対応しています! 公開してすぐ、海外の方から「アラビア文字がつながらず、逆に並んでしまう」とお問い合わせをいただき、その日のうちに直しました。Claudeにメッセージを渡して対策を考えてもらうという流れで直しています。
Claudeによると、現在はアラビア文字を正しくつなげて、右から左に並べるようになっています。英字や数字が混ざったところだけは左から右のままです。文字を沿わせる線も右から左へたどるので、勢いの向きも読む向きに合うそうです。
アラビア文字対応を指示して、ここまでやってくれるのがClaudeのすごいところです。とても気が利きますね。
擬音ジェネレーターの開発から見えること
漫画らしい擬音にするための試行錯誤が重要だったあたり、Vibe Codingでコーディング自体の負担は軽減されても、目指す完成度に至るまでのこだわりが必要なことがわかります。そして、多言語対応しているこの擬音ジェネレーターは、漫画の翻訳の世界でも活躍しそうな気がしています。描き文字の翻訳は大変そうですからね。
インタビューを終えて
AIに指示を出せばプログラムは作れます。しかし、出来上がったものが本当に使いやすいか、頭に思い描いたものになっているかは、実際に確認してみなければわかりません。++++(シャープ)さんの試行錯誤は、Vibe Codingでも作り手自身の判断や工夫が重要であることがよくわかりますね。
今回のインタビューで印象的だったのは、++++(シャープ)さんが最初から大勢の人に使ってもらうサービスを目指していたわけではないというところでした。
出発点は、苦手な作業や大変な作業を楽にしたいというところ。最初は自分が使うツールだったものが、公開して大きな反響につながり、そこからさらに新しいツールが生まれています。こういったことも今後のVibe Codingで多く出て来そうです。
機能要望を出すより自分で作ってみよう!
さて、皆さんもこうしたツールを使っていると、「こんな機能もあればいいのに」と思うことがあるかもしれません。そんなとき、機能追加要望を出すのではなく、自分でそのツールを作ってみるのはどうでしょう。
今は、AIの力を借りて、自分が欲しいものを自分で作れる時代です。
++++(シャープ)さんが自分のために作り始めたツールが、多くの人に使われるようになったように、皆さんのアイデアから時代を変えるツールが生まれたりするかもしれません。









