米司法省は10月13日(米国時間)、サンフランシスコのOpenAIオフィスの役員会議室に録音装置を仕掛けたとして、同社のエンジニアでサウジアラビア国籍のAbdulrahman Alfozan容疑者(35)を盗聴の罪で訴追したと発表しました。
FBIが10月9日に逮捕し、13日に初出廷。OpenAIは同容疑者を解雇しています。
■ OpenAI「自社モデルで装置と設置者を特定」
OpenAIは公式Xアカウントで、オフィス内に隠された「高度な録音装置」を発見したと公表しました。同社によれば、自社のモデルで装置を解析して出どころをたどり、数日前に設置した従業員を特定してFBIに通報しました。
現時点で、この人物がモデルの重み、ソースコード、顧客データに不適切にアクセスしたり持ち出したりした兆候はないとしています。今回の件は、AIが高度なセキュリティ上の脅威への対処に役立つ例だと説明しています。
■ AIに訊いたDIY録音機、テレビの裏にトイレットペーパーで隠す
司法省が公開した訴状の要旨によると、OpenAIの社員が9月30日ごろ、役員会議室のテレビ背面のUSB端子に挿さった録音装置を見つけました。
装置はトイレットペーパーで覆われ、9月28日ごろに設置されたもので、記録内容は暗号化されていました。

訴状の写真では、装置は外装のない小型の基板に、Seeed Studioが電子工作用マイコンボード「XIAO ESP32-S3」向けに単体で販売しているアンテナ部品をつないだものが写っています。
▲ 会議室への立ち入り権限はなし
訴状によれば、容疑者はこの会議室に入る権限も、会議に参加する権限も持っていませんでした。それでも、装置の発見前の複数の日に、会議室付近にいる姿が監視カメラに映っています。
この会議室では、未公開の研究や製品計画、事業開発、政府との関与、商取引関係といった機密性の高い情報が頻繁に話し合われていました。
▲ 妻アカウントでAIに「連続録音機の作り方」を質問
容疑者は設置前、社内の業務ツールで会議室の予定や役員の居場所、社外パートナーとの会議などを繰り返し調べていました。
また、容疑者の妻に関連するチャットボットのアカウントから、9月24日から30日にかけて、「連続録音機を作る」「Wi-Fi接続をカスタマイズする」「音声とリアルタイム聴取を改善する」「SDカードを暗号化する」といった質問が送られていました。
司法省は、このアカウントが容疑者本人のアカウントと複数の識別子や属性を共有していると説明しています。9月27日と28日には、装置そのもののカスタムヘッダーやMACアドレスについても質問していました。
▲ 発見後に会議室へ戻り、かばんから2台目
容疑者は10月5日に会議室に入り、装置が挿さっていたテレビの裏をのぞき込むような動きを見せ、司法省はその写真を公開しています。
同じ日には別の部屋にかばんを置いたままにし、警備担当者が開けると、財布や身分証とともに、1台目と同様の録音装置が見つかりました。
■ 政府側は国籍と「国家安全保障の問題」を強調
司法省の発表は、見出しを「サウジアラビア国籍の人物を逮捕」で始めています。
国家情報長官のJay Claytonは「この深刻な事態は、世界的な超知能開発競争に勝つことがなぜ国家安全保障上の要請なのかを浮き彫りにしている」とコメントしました。
(「超知能」Super Intelligenceは、米政府が使い始めたAIの置き換え語。もともとAI研究上の用語として存在しており、マーケティング用語として使われる例もありましたが、トランプ大統領は「人工知能(Artificial Intelligence)は『人工』がフェイク(作り物)に聞こえる」等と主張して、Super Intelligenceと呼ぶことを提唱していました。政府機関のほか、AI企業の一部も追従するかたちで採用しています。)
北カリフォルニア地区連邦検事のCraig Missakianは「われわれにとって、これは国家安全保障の問題だ」と述べ、司法長官のTodd BlancheもXで、最先端の超知能技術に関わる知的財産の窃取は国家安全保障への深刻な脅威だと投稿しています。
一方で、容疑者がサウジアラビア国籍であることは分かっているものの、現時点で外国政府や何らかの海外アクターによる干渉を示す情報は公表されていません。
(直接的に外国機関による謀略でなくても、先端AI技術についての情報が窃取され流通すれば国家安全保障の問題になるとはいえますが。)
なお、サウジアラビアは米国と伝統的に友好関係にある「主要な非NATO同盟国」であり、AIインフラの構築や半導体供給について米国と戦略的パートナーシップを締結しています。
▲ 適用は盗聴の条文
捜査はFBIが担当し、司法省国家安全保障局の防諜・輸出管理課の検事も訴追を支援しています。司法省は、超知能技術での米国の優位を支える大統領覚書(NSPM-11)に沿った訴追と位置づけています。
適用された罪状は、電子機器などを使って口頭の会話を傍受した、または傍受しようとした罪(合衆国法典18編2511条(1)(b))です。有罪の場合、最長で禁錮5年と罰金25万ドル、その後3年間の保護観察が科される可能性があります。
■ 10月19日に勾留審問
容疑者は勾留中で、10月19日(米国時間)に治安判事Alex G. Tseのもとで勾留審問が予定されています。FBIの捜査は続いており、OpenAIは引き続き協力するとしています。




