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なりすまし防止か有名人の証か。Twitterの認証バッジをめぐる経緯と混乱(集中連載「揺れるTwitterの動きを理解する」第2回)

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堀正岳

ブロガー・著者・研究者。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など。理学博士。 @mehori

特集

なりすまし防止か有名人の証か。Twitterの認証バッジをめぐる経緯と混乱(集中連載「揺れるTwitterの動きを理解する」第2回)
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イーロン・マスクによる買収で急激に変化しつつある巨大SNS「Twitter」の動きを解説する、堀正岳氏による集中連載の第2回は、認証バッジについて。集中連載「揺れるTwitterの動きを理解する」の第1回はこちら。

連載第1回:イーロン・マスク氏はなぜTwitterの収益化を急ぐのか


芸能人や有名人が信じられないようなツイートをしているのを見たとき、ユーザーがまず目を走らせるのがアカウント名の横、そこに青い認証バッジが光っているかどうかでしょう。

青字に白いチェックマークがついているこのバッジは、それが本人のアカウントであり、なりすましではないことを示す重要な手がかりです。

しかしイーロン・マスク氏によって買収されたTwitterが、アメリカなどの一部の国で提供されている月額課金のサブスクリプションサービスであるTwitter Blueの特典としてこの青い認証バッジを提供すると発表したことで動揺が生じています。

関連記事:Twitter、認証マークが手に入る新Twitter Blue有料プランの提供を延期

「いま月7.99ドルのTwitter Blueに加入すると、青いチェックマークがもらえます。Power to the People(人々に力を!)。あなたはすでにフォローしているセレブや企業や政治家と同じように、青いチェックマークをもらえるのです」

混乱のなかで一部のユーザーにプッシュされたTwitterのアプリの更新メッセージにはこのように書かれていました。

どうして認証バッジが大きな問題になるのかを知るには、認証バッジが生まれた歴史を多少たどる必要があります。

もとは「なりすまし防止」だった、認証バッジが生まれた経緯

認証バッジが生まれたのは、2009年に野球チームであるセントルイス・カージナルスのマネージャーであるトニー・ラ・ルッサ氏がTwitter上でなりすましアカウントの被害を受け、Twitterを相手取って訴訟をしたのがきっかけです。

Twitterはなりすまし被害に対して金銭的に補償することは拒否したものの、ユーザーがなりすましを見分けることができるように「認証バッジ」を与えることを発表しました。

当時のCEOだったビズ・ストーン氏は認証バッジが与えられる対象として「公的な立場にある人物、公的機関、有名なアーティストやアスリート、その他の著名人などなりすましのリスクがある人」と公式ブログで説明しています。しかしここでTwitterはこの認証バッジについて微妙な運用を始めます。認証バッジを「なりすまし防止」だけではなく、「有名人であることの証明」としても扱い始めるのです。

▲導入時のTwitter認証バッジ

2009年の段階では、Twitterは現在とは違ってアルゴリズムが勝手にフォローしていないユーザーのツイートをタイムライン上でおすすめすることのない、誰かをフォローする以外にはツイートが見られない仕様のSNSでした。

「誰かをフォローする」ことが比較的新しい概念だったからこそ、Twitterは有名なユーザーを「おすすめユーザー」として表示して、新しいユーザーが簡単に登録できるようにしていました。認証バッジは、有名人をわかりやすく表示してフォローを促す目的でも利用されるようになったのです。

大炎上を引き起こした二枚舌運用の顛末

認証バッジをめぐるTwitterの二枚舌はしばらく問題視されていませんでしたが、2017年にそれを揺るがす大きな事件が起きます。

きっかけは、アメリカ・バージニア州のシャーロッツビルにおいて極右団体が集会を開催し、それに対抗したカウンター活動家たちとの衝突でカウンター活動家の一人であるヘザー・ヘイヤー氏が殺害される事件が発生したことでした。

この集会を計画した白人至上主義者のジェイソン・ケスラー氏に対してTwitterが認証バッジを付与したため、「白人至上主義者を是認するのか」という批判が集中する騒ぎになりました。Twitterはケスラー氏がなりすましでないことを表示したつもりだったのかもしれませんが、長年「有名人の証」として二重の運用をしてきたために言い訳ができない状況に追い込まれることになります。

結局、Twitterは認証バッジの申請と承認のプロセスを一旦停止することを発表し、今後どのように運用すればいいのかを討議するとしました。

しかしその後も認証バッジのあやしげな付与は続きます。有名な例ではCEOのジャック・ドーシー氏の母に認証バッジが与えられたり、日本だと2019年4月に当時日産自動車の取締役を解任されて渦中の人物だったカルロス・ゴーン氏が作った新しいTwitterアカウントに認証バッジが付加されていた例、あるいは映画や大きなスポーツ大会のアカウントには最初から認証バッジが与えられたりしているといった不透明な運用が続けられました。

2021年に認証バッジの申請が再開した際には、「著名人や、その真正性が重要であるアカウントに対してバッジが与えられる」とされ、さらにはジャーナリストや活動家といった、フォロワー数が相対的に少なくても本人であることの確認が重要な意味をもつ場合も対象として明示されています。

つまり過去の経緯は様々であるものの、Twitterの認証バッジはどちらかというと「有名人の証」であるよりは「なりすまし防止」に重きを置いていると言っていいのです。これが今回の騒動の遠因となっているわけです。

本人確認のない認証バッジの意味

このような経緯があったため、新しいTwitter Blueの特典として認証バッジが与えられること、しかもそこに本人確認がないことがわかると大きな動揺が走ることになりました。

問題点は2つに分けられます。1つは、当然のことながら本人確認のない認証バッジの発行は、なりすましが認証バッジを申請して本物のように活動することにつながりかねない点です。

もう1つは、月額課金のサブスクリプションサービスに認証バッジを紐付けてしまうことで、住所や銀行口座などといった情報を秘匿したい活動家や、相対的に貧困層の人が認証バッジを保持できなくなるのではないかという懸念です。

1つ目については、認証バッジをもっているインフルエンサーの何人かが一時的にアカウント名を「Elon Musk」に変更して皮肉ったところイーロンの逆鱗に触れてアカウントが一時使用不能になるハプニングが起こっています。

イーロンが「パロディと明示していないなりすましはアカウント凍結の対象になる」と宣言する一方で、「パロディと風刺はアメリカ憲法修正第一条で守られた言論の自由では」などと反論するというやりとりも生まれて、大混乱となったわけです。

2つ目の点については、今後Twitter Blueがさまざまな国に広がる中で問題になることが予想されています。

世界には政府や権力者から弾圧されながらも情報発信を続けている人や、情報の裏取りをしてフェイクニュースに対抗するジャーナリストが数多くいます。そうした人はときとして住所や取引している金融機関などといった、本人確認の手段を秘匿する必要に迫られますが、Twitter Blueの仕組みはこれを許しません。

逆にこうした活動家やジャーナリストのなりすましアカウントが認証バッジを取得してしまうことになれば、そうしたツイートを読む私たちは誰を信用すればいいのかがわからなくなります。情報プラットフォーム全体が「オレオレ詐欺」の状態になりかねないのです。

認証バッジに加えて "Official" のバッジも?

こうした批判をうけて、TwitterではTwitter Blueで与えられる認証バッジに加えて、灰色の「オフィシャル」と書かれた新しいバッジが一部のユーザーに付与され始めました。

関連記事:Twitter、旧「認証マーク」は本人確認なしで誰でも購入可能に。著名人は新設の「公式マーク」で区別

Twitterのエスザー・クロフォード氏はこの新しいバッジを紹介するツイートで、これが政治家やマスコミといったアカウントのなりすましを防ぐとしていますが、それだったら青い認証バッジはいったいなんのためにあるのでしょう? 課金ユーザーであることの証を月8ドルで買うということでしょうか? 事態はさらに混乱しているようにしか見えません。

SNSプラットフォームには、なりすまし防止と匿名性という、難しいバランスをとることが求められます。なりすましを防止しなければ誰が本物かわからない中でフェイクニュースや誹謗中傷が横行するようになります。その一方で、一定の匿名性を守れなければ弾圧を受けている人や、アウティングを恐れる社会的弱者にとって安全な場所ではなくなりますし、言論や表現の自由も損なわれていきます。

これもその後、「オフィシャル」バッジをイーロンが廃止したとの報道があり、その後、Twitter公式からもそれを認めるツイートがありました。

なりすまし防止と匿名性のバランスを、botなどによるスパムを防ぎつつ収益になる形で運営するという、不可能に近い経営を求められるのがSNSプラットフォームの宿命です。「しばらくのあいだ、ツイッターは変なことをいろいろ試しながら進む」というイーロンは、果たしてそれをどこまで理解して、認証バッジの改革に手を付けたのでしょうか? この混乱はどこに着地するのでしょうか?

"Power to the People" といいますが、本当にそうなのでしょうか?

次回は今回のTwitterの買収劇における本丸である、モデレーションの問題について整理します。


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《堀正岳》
堀正岳

ブロガー・著者・研究者。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など。理学博士。 @mehori

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